「中小企業」の業況悪化が、「家計」と「企業」のマインドを同時に悪化させている可能性

ここで、家計と企業のマインドが同時に悪化している背景について考えたい。
過去の考察をベースにすると、インフレ率が鈍化する中で企業の値上げ(価格転嫁)が限定的になってきた可能性がある。しかし、企業の値上げが限定的になれば、家計のマインドは回復しそうである。家計と企業のマインドが同時に悪化している説明としては説得力が弱い。

次に、企業のマインドだけを上げてきたとみられるインバウンド消費についてはどうか。確かに、オーバーツーリズムの問題などによって回復ペースは鈍化しているように思われる。しかし、インバウンド消費が悪化(減少)している様子はなく、景気ウォッチャー調査の「悪化」を説明することは難しいだろう。

ここで、筆者が有力だとみているのが、中小企業の業況悪化の可能性である。
これまでのコスト高に加え、最低賃金の引き上げや日銀の利上げなど、中小企業の業況を悪化させる要因が増えている。政府・日銀は直接的には言及しないものの、これらの政策が「低生産性企業」の市場からの退出を促すものであり、新陳代謝が意図されていることは明らかである。この方向性が奏功するかは長期的な評価が必要だが、少なくとも短期的な痛みは避けられないだろう。大企業に比べて中小企業や零細企業、個人事業主は「企業≒家計」となりやすい面があると考えられ、中小企業の業況悪化は家計の消費マインドにも悪影響を与えることが予想される。

今回の景気ウォッチャー調査では、「最低賃金について、1500円を目指す方針が示されているため、今後の景気はやや悪くなる」(先行き、北海道、美容室〈経営者〉)や、「やはり全体で大きな割合を占める中小企業の業況が材料高、人手不足で悪い。最低賃金1500円などといっているが、中小企業には出せるわけがない」(先行き、南関東、税理士)といったコメントがあった。中小企業の業況悪化が足元の家計や企業のマインド悪化に示されているようにみえる。

実際に、景気ウォッチャー調査の「先行き」について、「中小」という単語を含むコメントが増えている。その上で、「中小」という単語を含むコメントは相対的に判断DIが弱い。「中小」の弱さと懸念の広がりが景気ウォッチャー調査の結果全体を下押ししている状況である。また、「最低賃金」という単語を含むコメントも増加傾向にある。「最低賃金」という単語を含むコメントも相対的に判断DIが低め推移となっており、「最低賃金」の議論も景気ウォッチャー調査の結果全体を下押ししている。

図表5:景気ウォッチャー(先行き)「中小」コメント(出所:内閣府より大和証券作成)
図表6:景気ウォッチャー(先行き)「中小」関連DI(出所:内閣府より大和証券作成)

図表7:景気ウォッチャー(先行き)「最低賃金」コメント(出所:内閣府より大和証券作成)
図表8:景気ウォッチャー(先行き)「最低賃金」関連DI(出所:内閣府より大和証券作成)