(ブルームバーグ):暗号資産(仮想通貨)業界は2024年の米選挙戦で約1億3500万ドル(約207億円)を投じ、民主党員と共和党員、現職と挑戦者、本命と大穴などさまざまな候補者50人余りを支援した。
しかし現時点で彼ら全員に共通するのは、勝利したことだ。
11月5日の選挙では、8日朝の時点で、業界の政治活動委員会(PAC)が支援した候補者48人全員の当確が発表された。票の集計がまだ行われている8選挙区では、同PACが支持する候補者が5選挙区でリードしている。
暗号資産業界はオハイオ州で上院議員を長年務める民主党の暗号通貨懐疑派シェロッド・ブラウン氏に代わり、共和党のバーニー・モレノ氏を当選させるために4000万ドル余りを投入。10月下旬の世論調査で劣勢だったモレノ氏は、7日正午時点で50.2%の票を獲得し、当確が発表された。
コインベース・グローバルのブライアン・アームストロング最高経営責任者(CEO)は選挙結果に関するX(旧ツイッター)への投稿で、「ワシントンは暗号資産業界に歯向かえばキャリアを失いかねないという明確なメッセージを受け取った」と指摘した。

有権者にとっては驚きかもしれない。暗号資産業界のPACが支援した候補者の発言や広告では、業界やその主要課題である規制についてほとんど言及されなかったためだ。それでも選挙運動を主に担ったフェアシェイクは単体として史上最大の政治活動特別委員会(スーパーPAC)となった。
フェアシェイクのほか、ディフェンド・アメリカン・ジョブズ、プロテクト・プログレスなどのスーパーPACは業界大手のコインベースやリップル・ラボ、アンドリーセン・ホロウィッツなどから資金提供を受けている。
その影響力は、コーク(旧コーク・インダストリーズ)やシェブロンなどの伝統的な献金企業を圧倒した。消費者擁護の非営利団体「パブリック・シチズン」によると、10年の画期的な最高裁判決で企業の政治献金の上限が撤廃されて以来、献金総額は化石燃料業界に次いで2番目に多いという。
現在、暗号資産業界は選挙への巨額支出と結果を、政治的に無視できない存在となった証拠として喧伝(けんでん)しており、次の議会会期と26年の中間選挙に向けて勢いを増している。
大統領選の結果が発表された数時間後、同業界を支援するロビー団体のシーダー・イノベーション財団は「史上最もブロックチェーンおよび暗号資産に理解のある議会」を称賛する声明を発表し、トランプ次期大統領に対し、証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長を直ちに解任するよう要請した。
業界は今後も有利な規制を求めて働きかけていく方針だ。非営利団体オープンシークレッツの分析によると、コインベースとリップルはロビー活動の強化を図っており、24年に入り採用した登録ロビイストは過去最多に上る。また、暗号資産投資を手がけるベンチャーキャピタルのアンドリーセンはワシントンにオフィスを開設する予定だ。
一方、フェアシェイクは中間選挙に向けて資金集めを進めている。コインベースは先週、2500万ドルの提供を約束し、アンドリーセンは今回の選挙戦の残り3000万ドルに加え、2300万ドルを追加拠出すると表明。リップルの共同創業者クリス・ラーセン氏は選挙から数時間後に送付した電子メールで、「業界はフェアシェイクへの大規模な支援を強化するだろう」と予想。この日は「業界にとって極めて重要な1日」となったとの見方を示した。
今の業界にとって、この程度の資金は容易に賄うことが可能だ。暗号資産擁護派の大統領が選出された高揚感と規制が緩和される可能性を背景に、デジタル資産の価格は急伸している。ビットコインは選挙から数時間後に過去最高値を更新。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、コインベース株の上昇により、アームストロング氏の個人資産は20億ドル余り増加した。


原題:Crypto’s $135 Million Campaign Is Undefeated in 48 Races So Far(抜粋)
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