中国では2025年1月から定年退職年齢の段階的な引き上げを開始する。ただし、それが本人の希望を優先する任意である点に留意が必要だ。就労期間の延長、労働人口の増加、年金財政の改善のため、積年の課題となってきた定年延長であるが、来年以降、順調に進むのであろうか。

定年延長は本人の希望に基づく「任意」

中国では2025年1月から定年退職年齢が段階的に引き上げられること(定年退職年齢の延長)が決定した。今後15年間(2039年まで)をかけて、男性は60歳から63歳へ、女性の一般労働者は50歳から55歳へ、女性の管理職や幹部職は55歳から58歳に延長される。ただし、留意すべきは段階的な延長といっても強制ではなく、任意である点だ。定年を延長するかどうかは本人の希望を優先し、雇用主である企業と協議の上、決定することになっている。

定年延長には従来より反発が大きく、可能なかぎり受け入れてもらえるよう、多くの配慮がなされた点がうかがえる。それを反映しているのが、条件を満たせば定年の前倒しも可能とした点である。受給資格期間(年金を受給するために必要な加入期間)の保険料を納付していれば最長3年の前倒しを可能とした。ただし、年齢については現行の法定退職年齢以上とし、男性60歳、女性の一般労働者は50歳、女性の幹部職・管理職は55歳以上といった制限も設けている。

中国の高齢化は日本よりも速いペースで進んでいる。労働人口の増加(就労期間の延長)、年金財政の改善のため、積年の課題となってきた定年延長であるが、来年以降、多くの人々が延長を選択すると考えてよいのか。執筆者はあまり楽観視できないと考えている。

検討・試行を経て、延長のペースも緩やかに

中国では2013年以降、定年延長の検討が本格化したとされている。しかし、その前年の2012年に開催された高齢化に関する討論会で、当局である人力資源社会保障部が提起した案が社会の反発を招き炎上している。それは2016年以降、定年退職年齢を2年で1歳延長し、2045年までに男女とも65歳まで延長するという内容であった。炎上を受けて当局はその案を取り下げ、翌2013年の三中全会の決定では「段階的な定年退職年齢の延長を研究・策定する」としか記載できなかった経緯がある。

以降、2021年の第14次5ヵ年計画で2025年までの実施が盛り込まれ、2022年に江蘇省などで試行をするまでは改定の原則のみを提示し、具体的な実施時期や延長のための引き上げ幅を示すことができなかった。江蘇省での試行の特徴としては、男女とも属性にかかわらず、本人が希望し、雇用主が同意すれば最短で1年から延長できるのが特徴である。これまでの検討や試行を経た上で、今般、本人の希望に基づいて、また、男女や属性に分けて引き上げ幅を調整し、延長のペースもより緩やかにする内容が決定されたのである。