米トランプ政権1期目、ウォール街関係者にとってドナルド・トランプ氏の絶え間ないツイートは好むと好まざるにかかわらず必読だった。

株価が上昇すれば誇らしげに語り、下落すればジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を「ジェロームというこんなやつをどこで見つけたんだ」などとこき下ろした。気に食わない企業の最高経営責任者(CEO)を威嚇し、世界中の国・地域に関税や制裁を課すと脅した。

昼夜問わず、ツイッター(現在はXに名称変更)を通じて行われる政策決定の伝達が普通となり、何百万人ものフォロワーに向けて次々に発信された。こうしたつぶやきが市場の急変動を引き起こすことも多く、金融市場のトレーダーや投資家の仕事や睡眠のスケジュールは乱された。

インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏はトランプ氏の1期目について「いつでも何かが起こりそうだと常に緊張していたのを覚えている」と振り返った。

5日の大統領選でホワイトハウス奪還を決めたトランプ氏が、ソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」などへの投稿を通じて過去の慣行を再現するのではとソスニック氏ら市場関係者は身構えている。

現代史上、自分の運命をこれほどまで金融市場と密接に結びつけた大統領は他にいないからだ。また自由主義世界で、株価上昇を自身の成功の大きな証しとしてこれほどあからさまに掲げた指導者もいない。

市場の動きに関してだけでも、トランプ氏は1期目に少なくとも100回ツイートしており、「ダウ」「ナスダック」「強気相場」「決算」「続伸」などの用語が含まれたことが、ブルームバーグの集計データで分かっている。

一方、バイデン大統領は今年に入ってS&P500種株価指数が初めて5000を突破した時など、同様につぶやいたのは数回だけで、歴代大統領とそう変わらない。「基本的に、今やほぼ何もかも耳にすることに影響されやすい状況に戻りつつある」とソスニック氏は語る。

大統領選でのトランプ氏圧勝によって、さまざまな資産クラスで大きな動きが起きた。S&P500種は最高値を更新し、小型株の指数は2年ぶりの大幅上昇を記録。高関税と財政支出拡大がインフレ再燃と貿易混乱につながると不安視される中、債券利回りとドルは急上昇した。

もっとも、アプローチは異なってもリターンは他の政権とほとんど変わらなかった。2016年大統領選のトランプ氏勝利から20年11月のバイデン氏勝利までの間に、S&P500種は64%上昇したが、バイデン政権下では69%上げた。

ただ市場についてつぶやく傾向はトランプ政権の象徴だった。19年12月にダウ工業株30種平均が最高値を更新した際は、「それを伝えるのに飽きることはないだろう」とツイートした。

19年3月には、FRBの利上げは誤りであり、とんでもないタイミングで量的引き締めを実施したなどと投稿したが、今年6月のブルームバーグとのインタビューでは、パウエルFRB議長が「正しい政策運営を行っていると考えられる場合」は「任期を全うしてもらうつもりだ」と語った。

Bライリー・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、アート・ホーガン氏は、トランプ氏が「本性を変えるのは難しいだろう」とした上で、「それは彼が自分の考えを伝える主要手段の一つだ」と指摘した。

原題:Trump’s Jawboner-in-Chief Act Is Coming Back to Global Markets(抜粋)

--取材協力:Abhishek Vishnoi、Neil Campling.

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