(ブルームバーグ):世界各国・地域の中央銀行は、ホワイトハウスに返り咲くことになったトランプ前米大統領に対する最悪の懸念が現実のものとなるかどうか見極めようとしている。
トランプ氏が公約した輸入品への課税は世界貿易を一変させる恐れがあり、減税は連邦財政をさらに拡大させ、不法移民の国外追放は安価な労働力の減少につながりかねない。
これらが現実になれば、2つの大きなリスクが生じる。世界的な経済成長の鈍化と、米国内でのインフレ加速で米金融当局が利下げ姿勢を後退させるリスクだ。その結果、ドル高が進み、新興国が自国の金融状況を緩和する余地が狭まる恐れがある。

欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁は6日にロンドンで「もし米国のような重要国が、例えば中国のような他の重要国に対し、60%の関税を課すとしたら、直接的・間接的な影響や貿易の分断は間違いなく甚大なものになる」と述べた。
ゴールドマン・サックス・グループは欧州について、トランプ氏の政策による経済成長鈍化見通しを理由にECBの追加利下げを予想。中国も、高関税に直面し計画よりも緩和を拡大するとの見方が高まっている。しかし、全ての地域がそのような余裕があるわけではなく、新興市場国は自国通貨を支えるためタカ派的な姿勢を強める可能性もある。
6日の金融市場の動きは金融当局者に今後起こり得る状況をうかがわせた。ドルは主要通貨に対し2020年以来最大の上昇となり、米国債利回りは急伸。アジアの一部当局者は自国通貨を防衛するための措置を講じると表明した。
インド準備銀行(中央銀行)のダス総裁はトランプ氏勝利に近づく中、ムンバイでのイベントで、選挙の余波やその他の世界的な問題に対処するにあたり、インドは「好位置にあり」、「非常に回復力がある」と楽観的な見方を示した。
トランプ氏が確実に関税の標的とする中国の人民元は1%強下落したが、国有銀行がドル売りで元を下支えしたとトレーダーは匿名を条件に話した。
ブルームバーグ・エコノミクスは、「トランプ氏当選は、世界経済にとって広範囲にわたる関税の大幅引き上げにつながり得る。同氏は中国からの輸入品に対して60%、それ以外の国に対し20%の関税を賦課する構えだ。そうなれば、米国の平均関税率は20%を超え、20世紀初頭以来の高水準となる。米国の最も緊密なパートナーであるメキシコとカナダが最大の打撃を受けるだろう」と予想した。
ナティクシスのアジア太平洋地域チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は、中国人民銀行(中銀)が政策緩和をさらに急がざるを得なくなる可能性があり、元相場を押し下げかねないと指摘。しかし、米金融当局が政策のペースを減速させる場合、近隣の中銀はさほど急ぐ必要はないかもしれないという。
ガルシアエレロ氏は「米国市場は歓呼の声を上げるかもしれないが、アジア全域の経済は大きな敗者となる恐れがある」と述べ、「トランプ氏の政策は、中銀が最も必要としている状況で利下げの余地を狭めることになる」との見方を示した。
大統領選結果の余波は欧州にも伝わった。特に、ロシア軍の侵攻に対抗するウクライナへの米国の支援が減少することを懸念する東欧ではその傾向が顕著だった。米国と欧州連合(EU)の関係が冷え込む事態を懸念したトレーダーは、ユーロを対ドルでパリティー(等価)に向け押し下げた。

原題:Trump Win Wreaks Havoc on Global Rate-Cut Expectations (1)(抜粋)
--取材協力:Jana Randow、Alexander Weber、Qianwei Zhang、Argin Chang、Anisah Shukry、Grace Sihombing、Ruth Carson、Ruchi Bhatia、Saikat Das、Iris Ouyang.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.