(ブルームバーグ):「DEI」重視は良いことだという考え方が、米国で批判にさらされている。DEIとはつまり、ダイバーシティー(多様性)とエクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂性)だ。
経済界がそうした批判の矢面に立っている。ロビー・スターバック、エドワード・ブラム両氏らアクティビスト(物言う投資家)がDEIを支持する米企業を攻撃。ここ数カ月にボーイングやフォード・モーター、ロウズなど少なくとも米大企業10社がDEI関連の取り組みを撤回または縮小すると発表した。
政界も同じような状況だ。激しい米大統領選のさなかに、この話題の政治色は強まった。トランプ前大統領を支持するイーロン・マスク氏ら共和党側は、民主党の大統領候補ハリス副大統領を「DEI」での採用だと表現。ハリス氏がここまで上り詰めたのを可能にしたのは知性と能力ではなく人種と性別だと示唆した。

DEIは実際に何を意味するか
DEIという用語は元々、採用・雇用で多様性を高めるという考え方を広めるため使用された。だが採用された女性や非白人が必ずしも成功したり、または指導的地位に就けるとは限らず、用語の解釈が広がった。
職場などでDEIは、この用語に関する見解の不一致でより攻撃されやすくなった。人材マネジメント協会(SHRM)は、人事担当幹部に対して「公平性」の優先順位を下げ、「多様性」と「包摂性」に重点を置くよう促したことで批判を浴びた。
一部の企業は「包摂性」を強調し始め、自社の取り組みが特定のグループだけでなく全ての人が対象だと強く印象づけようとしている。また、文化や人的資本管理といった用語を用い、これら取り組みの表現方法を変えた企業もある。
なぜDEIが物議を醸すようになったのか
2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察官に殺害された事件をきっかけに、米企業の人種的不公平に対する反発が広がった。非白人を新たに雇用すると表明する企業が相次ぎ、最高多様性責任者の採用数は過去最多を記録。22年まで、多くの大企業は多様性目標の達成に取り組んだ幹部に追加ボーナスを支給していた。
だが同年序盤に転機が訪れた。ESG(環境・社会・企業統治)に対する批判の高まりだ。保守派はブラックロックなどのファンドが「極端」な社会課題を推し進めていると主張。ペンス前副大統領やフロリダ州のデサンティス知事ら共和党有力者も反ESGを推進し始めた。

23年に米連邦最高裁は、大学における積極的差別是正措置(アファーマティブアクション)は差別に当たり違憲との判決を下した。それまで学校は、1964年に制定された公民権法第6条に基づき、入学者選考で人種や性別など属性の考慮が認められていた。
この判決は企業には直接的な影響を与えなかった。公民権法第7条は例外を除き、雇用主が人種や性別、年齢、障害、それに退役軍人であることを理由に、ある候補者を他の候補者より優先して選ぶことを禁じている。
また2020年の最高裁判決では、性的少数者であるLGBTQの働き手にもこうした保護的な取り扱いが拡大された。だが積極的差別是正措置の違憲判決を受け、ブラム氏やトランプ前政権でスタッフだったスティーブン・ミラー氏ら司法界のアクティビストが勢いづいた。こうした人たちは企業が非白人を不当に優遇して採用したと主張して訴訟を起こすなどしている。

DEIイニシアチブで変化が生じたのか
労働市場で白人男性の優位性がわずかに低下したに過ぎない。経営幹部で白人男性から非白人および女性へのシフトは若干だが着実に進んでいる。ただ職場に関する連邦統計によると、白人男性は米労働人口の3割ほどだが、上級管理職の約6割を占める。
米労働統計局の19-23年のデータによれば、黒人が管理職に占める割合は7.8%から9.2%に上昇した。黒人は全米人口の約14%で、全米労働力では約13%。
多様性は企業利益を押し上げるのか
多様性支持派の多くは、ビジネス上のメリットを強調する。さまざまなバックグラウンドを持つ人で構成される労働力は、企業の集団思考を回避する上で役立つという。より幅広い視点を得られる利点があることに同意するDEI反対派も多いが、メリットを得る方法については意見が分かれるかもしれない。
15-20年にマッキンゼーが実施した一連の調査では、上場企業の利益と経営陣の人種的多様性との間に統計的に有意な相関関係が認められたが、最近の研究に基づくと、そうした調査結果の持続性と広がりに疑念が生じている。

米企業はどのように対応したか
企業は多様性プログラムの推進に一段と慎重になっている。公開文書からの用語削除に加え、特定のマイノリティーグループに有利なインターンシップの中止・変更や有色人種を多く雇用した経営幹部に報いる制度の廃止といった動きがある。
スターバック氏のソーシャルメディアから「ウォーク(社会正義に対する意識が高いこと)」だと攻撃され、トラクター・サプライやディア、ポラリス、ハーレーダビッドソンがDEIの方針を縮小または変更した。
ウイスキー「ジャックダニエル」を製造するブラウンフォーマンはDEIプログラムを中止した。スターバック氏が同社に不利なキャンペーン開始を計画しようしている直前だった。ホームセンター運営のロウズも同様だ。スターバック氏によれば、ボーイングに接触した後、同社はグローバルDEI部門を解体。同部門の幹部は退社した。
これら企業の一部は、米LGBTQ団体ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)が算出し、LGBTQ従業員に対する企業の支援を評価付けする企業平等指数(CEI)への参加中止に同意した。
ただ大方の企業は幅広くDEIを推進する方針に変更はないとしている。もっとも、雇用専門の弁護士の間では、企業は訴訟などに耐えられるよう自社プログラムの見直しも進めているとの見方が多い。

原題:Why Companies Are Backing Away From DEI Programs: QuickTake(抜粋)
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