(ブルームバーグ):2009年以来、15年ぶりに自民・公明の連立与党が衆議院選挙で過半数を維持できず、政治流動化や重要法案審議が滞るリスクが浮上し、日本市場に新たな暗雲が立ちこめてきたとストラテジストやアナリストらは不安を覚えている。
政治資金パーティーの裏金問題が昨年発覚して以降、自公政権に対する有権者の支持は徐々に低下してきたが、27日投開票の衆院選で自民党は解散前から50以上も議席数を減らし、公明党と合わせて過半数を割り込むなど与党への批判は最高潮に達した。就任間もない石破茂首相が政権支持率の高いうちに衆院を解散した勝負手は、完全に裏目に出た格好だ。
28日の日本市場は、円相場が対ドルで3カ月ぶりの安値を更新するなど下落し、債券も下落。一方、下げて始まった株式は重要イベント通過による買い戻しも入り、日経平均株価は一時800円以上反発。市場の一部では、日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革に対する根強い期待に言及する声も上がる。

衆院選結果を受けてストラテジストやアナリストらが語った日本市場に関するポイントは以下だ。
押し目買い
東洋証券の大塚竜太ストラテジストは、与党が想定以上に負けた印象で、状況は非常に不透明だと指摘。与党の敗北は相場にまだ十分織り込まれていないと警戒する。一方、本格化している国内主要企業の決算発表で好業績を確認した企業はそれほど売られることはなく、押し目買いのチャンスがあるとみている。
長期的な利益
ラッセル・インベストメント・グループのストラテジスト、アレクサンダー・カーズリー氏は中長期的には日本株が好調を維持できる条件は整っているとの認識だ。企業が株主資本利益率(ROE)を重視し、設備投資を増やす姿勢は非常に心強い材料で、衆院選結果の影響を大きく受けることはないと予測する。
円の対ドル相場については、しばらく前から評価面では非常に魅力的になっていると分析。材料に過剰反応する形で今後数日から数週間の間に一段と円売りが加速した場合、それは魅力的な投資機会になると言う。
円安圧力
シドニーに拠点を置く豪KCMトレードのチーフマーケットアナリスト、ティム・ウォーター氏は衆院選結果は10月に入り下落基調を強める円にとって好材料にはならないとみている。
与党の過半数割れは金融市場が嫌う不確実性そのものだと指摘。投資家はより明確な結果を望むだろうが、自民党に対する国民の信頼が明らかに失われていることを踏まえると、そうはならないかもしれないと話す。
割安ではない日経平均
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は、日経平均の前週末終値時点の株価収益率(PER)は15.28倍となっており、決して安くはないとみている。
水準面では3万5000円から3万7000円の間で推移する可能性が高いと予測。投資家の関心は今後、米国の給与データや大統領選の行方など世界的な要因に移っていくとの認識を示した。
脆弱な政府
アストリス・アドバイザリー・ジャパンの投資戦略責任者、ニール・ニューマン氏はもしも政府が何もできない状況にあるとしても、コーポレートガバナンス改革、労働参加率の向上、好調な企業収益などアベノミクスの効果が残っているのであれば、株式市場にとっては良いことだと述べた。
首相の交代劇が起こり、日本の情勢が泥沼化していくのは間違いないが、自民党は生き残るともみている。
脆弱なセクター
コムジェスト・アセット・マネジメントのポートフォリオ・マネジャー、リチャード・ケイ氏は日本銀行の金融政策は緩和的なままであるべきだと言う一人だ。タカ派と目される石破首相でさえ、現状は金利を引き上げるタイミングではないと話し、他の政党は自民党以上に金融の引き締めには反対していると指摘した。
日銀は過去3年にわたり、利上げを予想する多くの専門家の予想を完全に覆してきたとケイ氏は言う。日本の銀行株は2倍以上上昇し、市場が利上げを予想しているように見えるが、銀行株は今最も脆弱な状態にある可能性を懸念している。
一方、衆院選の混乱を予想して事前に円安が進んだ円の対ドル相場は、今後政治情勢が落ち着き、日米金利差が縮小方向に回帰した場合、円は今夏のように正常化の道に戻ると予測。自動車や鉄鋼、商社など円高に敏感なセクターは恐らく影響を受けやすいと話した。
財政リスク
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、リスク回避と政治の不透明感から短期的には金利は低下する可能性があるものの、超長期ゾーンでは財政リスクプレミアムを織り込み、長期的に金利が上昇する可能性が高いとの見立てだ。
今後過半数割れとなった自公は日本維新の会、消費税や所得税の減税を公約に掲げる国民民主党と連立を組むかもしれず、積極敵な財政政策が取られる可能性が高く、2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化の目標は放棄され、日本国債格下げの可能性も排除できないと言う。
辞任の可能性
ピクテ・ジャパンの田中純平ストラテジストは、対ドルでの円売り圧力には「日本売り」の側面もあるため、円安が日本株に与える好影響は限定的になるとの見解を示す。また、新たな連立政権の枠組みや政策ごとの部分連合を含む自公と野党側の協議が暗礁に乗り上げ、石破首相が辞任に追い込まれる可能性もあり、これも日本株には重しになると指摘している。
自民党の弱体化
CLSA証券のストラテジスト、ニコラス・スミス氏は石破首相が当初何を達成したいか話していた内容を思い出すことが重要だと言う。それは増税だ。
自民党が弱体化すればするほど、石破首相がそれを達成することは難しくなり、それは市場にとって良いことだとスミス氏は述べた。市場は安倍晋三氏という強力で有能な元首相に安心してしまっていたため、政治はほとんど市場に影響を与えることもなく、単なる愉快な見世物に過ぎなかったと振り返る。
連立政権の行方
三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、今後自公は小規模政党との連立や協力について話し合う必要があるとみている。政治の先行き不透明感が続けば、日本の資産価格に下落圧力がかかり、これは円相場にとって困難な状況で、円安傾向が続く可能性は高いと言う。
--取材協力:Alice French、佐野日出之、田村康剛、横山桃花、Ken McCallum.
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