(ブルームバーグ):自民・公明両党の連立与党が過半数割れ、立憲民主党の躍進という衆院選の結果を受け、「資産運用立国」など金融市場の活性化を後押ししてきた政策の先行きに関心が集まっている。選挙直後で不透明感が増す中、金融セクターの株価動向には業種により違いも出ている。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフ・マーケット・ストラテジストは、資産運用立国という政策は、海外にわかりやすくアピールされるなど、日本株市場にとっての「プラス材料だった」と指摘。政策が継続されるか見極めるため、市場は様子見の姿勢となりそうだとみている。
市川氏はその上で、基本的に大きな変化はなくても「立民は金融所得課税、増税に触れていたため、警戒感が高まる恐れがある」と述べた。

一方、東洋大学の野崎浩成教授は「選挙結果が資産運用立国実現に向けた政策運営に著しく負の影響を及ぼすことは予想していない」という。「勤労所得と資産所得を充実させる政策目的は、日本維新の会や国民民主党などの保守系野党の考え方から外れていない」ためで、金融セクターへの短期的な影響もないとみる。
衆院選の結果を受けた28日の東京株式市場で、TOPIXは小幅安で始まった後、反転上昇した。金融セクターでは証券株が高値圏で推移する一方、朝方はTOPIXと同様の動きを示した銀行株の一部などが伸び悩んで取引を終了した。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の伴英康アナリストは、資産運用立国の実現に向けた動きについて、「金融庁を含めて色々なプランニングをしてきており、仕組みとして魅力的な市場形成をという部分の政策面では変わらないだろう」との見通しを示した。
一方、セゾン投信の瀬下哲雄マルチマネジャー運用部長は、株価や金利の上昇は自公政権の下で実現したものの、一般的な民意には大きく響いていなかったようだと選挙結果を振り返った。こうした点も踏まえ、金利上昇に連動した銀行株などの上昇というシナリオは「少し不透明」になってきたとみている。
健全な規律に期待
自公の与党は今後、連立政権の維持を模索するものとみられるが、その枠組みはまだ明らかになっていない。一方、議席数を大幅に増やした野党第一党の立民の野田佳彦代表は、特別国会で首相指名を目指す考えを示している。
米国モーニングスターのアナリスト、マイケル・マクダッド氏は金融セクターの動きに関連して、コーポレートガバナンス(企業統治)改革への影響を注視。「社会的な合意が十分にできている」とし、政権の枠組みにかかわらず、今後も進むとの見通しを示した。
また、選挙結果を受け一時1ドル=153円台後半まで円安が進んだ為替相場に関しては、「米大統領選挙の結果からも影響を受ける」と指摘。円安は一般的に物価上昇圧力となり追加利上げの環境を整えるとされ、マクダッド氏は金融セクターの「利益と株価にプラスだ」とした。
東洋大の野崎教授は、金融市場にとってのリスクシナリオとして、「自民の内部分裂による政権遂行能力の喪失」を挙げた。その上で「個別政策では維新や国民と連携する余地は十分あるため、健全な規律が機能した政権運営を期待してもいいのではないか」とも語った。
かんぽ生命保険執行役員兼運用企画部長の野村裕之氏は、衆院選の結果を契機に「いろいろな政策が少しずつ変わっていく可能性はある」と分析。来年に控える参院選に向け、財政出動も含め「各党がいろいろな策を出してくる」として、日本経済に与える影響などを見極めたいとの見方を示した。
(最終段落にコメントを追加しました。第4段落の大学名を訂正済みです)
--取材協力:谷口崇子.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.