(ブルームバーグ):セブン&アイ・ホールディングス(HD)の特別委員会はカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールからの買収提案を退ける可能性がある。そうなった場合、株主が提案を拒否した取締役の交代に向けて動き出せば、「前門の虎」となる買収者と「後門のオオカミ」の株主による挟み撃ちに追い込まれる可能性がある。
ある証券会社の幹部は、経済産業省が昨年8月に公表した「企業買収の行動指針」がクシュタールを招き寄せたと受け止めていると話す。
同指針では、企業は真摯(しんし)な買収提案を受けた場合、真摯に検討するのが基本とされた。取締役会が望まないいわゆる「敵対的買収」提案でも、企業価値の向上と株主利益の向上が図られるならば望ましい買収と位置付けを直し、表現も「同意なき買収」に置き換え、そういった買収に対し実質的なお墨付きを与えた格好となった。
複数の同意なき事例
実際、指針の公表以来、国内ではすでにベネフィット・ワンに対して株式公開買い付け(TOB)に動いたエムスリーに対抗し、第一生命ホールディングスがより高い価格で同意のない買収を提案し、買収に成功。MBO(経営陣が参加する買収)を発表したローランドDGにブラザー工業が対抗TOB提案を出すなど、同意のないまま動き始める案件が複数登場してきている。
国内勢にこうした動きがある中で、次の焦点となっていたのが海外企業による買収提案だった。今年のM&A動向を占う2月のインタビューで、野村証券インベストメント・バンキング・プロダクト担当グローバルM&A統括の清田亮氏は一般論として海外からの日本企業に対する関心が高まっているとの見方を示していた。今回のクシュタールの提案はその先鞭(せんべん)を付ける格好となっている。
7&iHDの社外取締役で構成する特別委はクシュタールの提案を退ける可能性がある。しかし、指針に従えば、買収された場合と現経営陣の経営が続いた場合とを比較して、どちらが企業価値の向上と株主利益の確保に寄与するのかを客観的、定量的に分析しなければならない。

突き上げ不可避
上場企業のアドバイザーとしてアクティビストとの対話や同意なき買収への対応を手掛けるクエストハブの大熊将八社長は「7&iHDの判断が結論ありきの検討と見なされれば、同社の少数株主、とりわけアクティビストからの突き上げは不可避」と話す。
7&iHDにはアクティビストの米バリューアクト・キャピタル・マネジメントが一時期は4.3%を保有する大株主に名前を連ね、経営戦略の転換を求めて2023年の定時株主総会で井阪隆一社長ら一部の取締役の選任に反対した。
現在、バリューアクトは同社の大株主から外れてはいるものの、引き続き株主として残っている可能性は否定できない。仮に7&iHDがクシュタールの提案を退けたとしても、その理由に説得力がなければ今度はバリューアクトなどのアクティビストが提案の受け入れを求めて再び取締役の選任に圧力を掛ける動きも予想される。
さらに、クシュタールが同意なき買収に打って出る可能性も否定できず、その場合には7&iHDはクシュタールとアクティビストの両面からの挟み撃ちという難局に立たされることになる。
インダス・キャピタル・パートナーズのパートナーのハワード・スミス氏は、今回のクシュタールの提案を契機に、海外の投資家や事業会社が「日本でのM&Aの魅力や容易さに注目することになる」とし、同提案は「市場全体にとって非常に重要なリトマス試験紙になる」と述べた。その上で、アクティビストや事業会社の買収から守る上での最善の防衛策は株価を上げることだと指摘した。
(スミス氏のコメントを追加して記事を更新します)
--取材協力:Lisa Du.
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