バイデン米大統領が選挙戦から撤退するか否かを巡る観測はウォール街を揺らしている。トレーダーは、トランプ氏がホワイトハウスに返り咲いた場合に影響を受けるであろうドルや国債、その他の資産の間で資金を移動させている。

  ポートフォリオの再調整は、大統領選に向けて6月27日夜に行われた第1回討論会が終わった直後から始まった。同討論会でバイデン氏は一時固まったように見えたり、同じことを繰り返したりする場面があるなど、散々な結果となった。最も大きく反応したのは国債市場で、10年債利回りは翌日以降の数日で一時20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)近く上昇した。

  バイデン氏が候補を辞退するとの観測は急速に高まっており、賭け市場では選挙戦を継続する可能性は50%未満とみられている。投資家は米独立記念日の祝日や週末に何らかの発表がある場合に備え、対応を急いでいる。

  匿名を条件に語ったあるファンドマネジャーは、バイデン氏撤退によって引き起こされるであろうリスク急増に対するヘッジとして、休みの前にポートフォリオのポジションをドルと短期債に傾けていると語った。

  TDセキュリティーズの米金利戦略責任者、ジョナディー・ゴールドバーグ氏は「討論会以降、各市場ではすでに選挙の勝敗予想が見直されており、過去24時間のニュースは火に油を注いでいる」と語った。

  トレーダーやストラテジストの間では、トランプ氏がホワトハウスに返り咲けば、財政政策の緩和と保護主義の強化というインフレ誘発型の政策の組み合わせから恩恵を受ける取引に拍車がかかるというのがコンセンサスになっている。ドル高や米国債利回り上昇のほか、銀行株や医療株、エネルギー株の上昇などだ。

  米国から遠く離れた豪シドニーでも市場関係者は身構えている。ナショナルオーストラリア銀行(NAB)のストラテジスト、ロドリゴ・カトリル氏によると、バイデン氏の選挙戦撤退に備え、誰もがトレーディングの計画を準備している。

  「いずれにせよ、市場はトランプ氏の勝利に賭けている」とカトリル氏。「民主党は非常に難しい選択を迫られているようだ。どの選択も簡単ではなく、より良い結果をもたらしそうなものでもない」と語った。

  いわゆるトランプトレードはざまざまな市場で以下のように具体化している。

ドルのシグナル

  ドル相場はいち早く、トランプ氏勝利の可能性に対して市場がどのように調整するかのシグナルを送っている。ドルは先週の討論会後の数時間で上昇した。今年に入り、米連邦準備制度理事会(FRB)が高金利を長期化させる意向を示していることがドル相場を押し上げているが、トランプ氏が優勢と見られたことでドル相場はリアルタイムで明確な上昇を見せた。

  「トランプ氏が勝利すれば、インフレ率の上昇とドル高が予想される。トランプ氏はさらなる関税引き上げを約束し、移民問題にも厳しい姿勢を示しているからだ」と、ジョイス・チャン氏率いるJPモルガン・チェースのストラテジストは指摘した。

  ドル高とトランプ氏による関税引き上げ政策によって下落する可能性があるのは、メキシコ・ペソと中国人民元だ。

 

  

 

イールドカーブ

  討論会の余波に対し、米国債市場のマネーマネジャーたちは短期債を買い長期債を売ることで反応した。スティープナーと呼ばれる取引だ。

トランプ氏勝利なら長期米国債利回りは上昇の公算-ウェリントン

  モルガン・スタンレーやバークレイズなどがこの戦略を支持し、トランプ政権が再び誕生した場合を想定し、インフレと長期債利回りの上昇に備えるよう顧客に促した。

トランプ氏が勝利ならイールドカーブはスティープ化-モルガンS

  先週の終わりからの2営業日で、10年物利回りは2年物利回りとの比較で約13bp上昇。昨年10月以降で最も急激なスティープニングが起こった。

  3日には、先物価格が権利行使価格を上回ったり下回ったりすることで利益を得る、いわゆるストラングルストラクチャーの買いを通じて、トレーダーが目先の米国債市場のボラティリティーに備える兆候が見られた。

 

  

 

株価は上昇

  トランプ氏勝利の見通しは、規制環境や合併と貿易関係に対する同氏の姿勢から恩恵を受けると思われる数多くの銘柄を支えた。討論会の後、市場全体が上昇した。

  セブンス・リポートの社長兼創業者、トム・エッセイ氏は「共和党は一般的に企業に友好的であると見られているため、その勝利は株高を意味する」と語った。

金融株ETF

  上場投資信託(ETF)市場は最近、明確な投資戦略を示している。トランプ氏が大統領になれば規制緩和に拍車をかけインフレを引き起こす政策を取り米国債イールドカーブがスティープ化することを見込んだ銀行株のロングだ。

   400億ドル(約6兆5000億円)規模のファイナンシャル・セレクト・セクターSPDRファンド(XLF)は先週、過去2カ月余りで最大の資金流入を記録。およそ5億4000万ドルが流入した。今週は6億1100万ドルが流入している。

 

 

  

 

アジアへの影響

  米中の緊張が高まっており関税の問題もあるため、アジア市場も米大統領選挙を巡る思惑と無縁ではない。

  トランプ氏は中国からの輸入品に60%、それ以外の国からの輸入品に10%の関税をかけることを打ち出している。

  インベスコ・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、木下智夫氏は、トランプ氏は中国からの輸入品に今よりかなり高い関税を課す考えを示しているため再選は中国株にとってマイナス要因になると指摘。中国市場へのエクスポージャーが高い日本株も打撃を受ける可能性が高いと付け加えた。

暗号資産の支持

  トランプ氏はここ数週間、暗号資産(仮想通貨)業界幹部と会談したり、将来的なビットコインの採掘はすべて米国内で行われるようにすると約束するなど、業界への支持を示している。

  資産運用会社のバンエックと21シェアーズは仮想通貨ソラナの現物ETFを申請している。承認は望み薄とみられているが、市場関係者の間では再選されたトランプ氏がバイデン政権時代のゲンスラー氏よりも暗号資産に友好的な米証券取引委員会(SEC)委員長を任命するだろうという見方があり、ソラナETFが承認される可能性がある。

原題:(抜粋)Global Markets on Alert for Biden Exit as Trump-Win Trades Mount、Wall Street on Alert for Biden Exit as Trump-Win Trades Mount

--取材協力:Ruth Carson、Bre Bradham、Nazmul Ahasan、Carter Johnson、Vildana Hajric、Liz Capo McCormick、Ye Xie、Emily Nicolle、Katie Greifeld、Edward Bolingbroke、Anya Andrianova、Jan-Patrick Barnert、Natalia Kniazhevich.

(具体的な戦略を追加します)

More stories like this are available on bloomberg.com

©2024 Bloomberg L.P.