再審の進行「裁判所次第」欠かせぬ法整備

ーそのほかの再審法の問題点はなんですか。
2つ目は、検察官抗告(不服申立て)の問題です。袴田事件の再審公判が始まるまで、再審開始決定から9年もかかった原因の一つです。検察官が抗告しなければ、2014年の決定の段階で再審公判が始まっていたわけですから。

再審開始が即無罪となるわけではなく、検察官と弁護人は再審公判で争えるのです。それなのに再審公判が始まる前に検察官が抗告する、いわゆる「前さばき」がうんと肥大化してしまって、そこに当事者も法曹三者も非常に大きなエネルギーと時間を費やしている。本来のあり方ではないと思います。

検察官は「誤った再審開始決定を是正しなければ、公益の代表者としての責務を果たせない」といいますが、この抗告によって、えん罪被害者の利益が著しく損なわれています。抽象的には検察官の言う通りで、現に決定が取り消された事例もありますが、実際には開始決定に対する検察官の抗告は、ほとんど棄却されているのです。最終的には再審公判が始まり、結果無罪になっているのです。

検察官が抗告をした分、時間がかかり、えん罪被害者の救済が遅れる。えん罪被害を拡大させています。抗告は必要性が乏しく、むしろ実害の方が大きい。検察官としては、抗告という制度がある以上は、「する」という方向になるでしょう。

欧米の先進国などの立法例をみると、基本的には開始決定に対しては、検察官が抗告ができない制度になっています。日本でも禁止すべきです。

裁判所と検察官、請求人(弁護団)の協力関係の下で、なるべく迅速な進行を図るというのが審理の建前ですが、裁判所はどう進めるべきかも規定されていない。検察官と弁護人は裁判所からなかなか期日を指定されず、「空白」のような状態が続くのです。さまざまな混乱と遅滞を招いているといえます。

再審請求人からすると、請求を受理してもらったけれど、一体裁判所はいま、何をしているのかわからない状態が、年単位に及ぶことも珍しくありません。司法への信頼は失われる一方でしょう。

再審法を整備すれば、再審に携わる法曹がそれぞれの立場で任務を遂行していくことができるようになります。困る人はいないどころか、請求人の利益になるだけでなく法曹三者にとってもよいことだと思います。

<プロフィール>
村山浩昭(むらやま・ひろあき)東京大法学部卒、1983年に判事補任官。2012年から静岡地方裁判所の部総括判事。2014年3月、同地裁裁判長として袴田巌さんの再審開始と釈放を決定した。盛岡地裁・家裁所長、名古屋と大阪両高裁の部総括判事を務め、2021年に定年退官。2022年に弁護士登録。