偶然関わった再審「えん罪という過酷さ知って」

まずは知っていただきたいですね。現にこの日本で、えん罪という過酷な目にあっている方がいること。ではなぜそんなことが起きるのかということを、考えてほしいです。
袴田事件は、たくさんある再審事件の中の一つですが、再審制度の問題が、わかりやすい形で凝縮されているといえます。これまでの日本の刑事司法はいかに問題があったのかということを示している事件です。率直に目を向けて、いまの刑事司法制度、再審制度の問題点を考えるきっかけにしていただきたいです。
ー再審法を改正すべきだと考え始めたのは、袴田事件がきっかけですか。
再審法の課題は認識していましたが、より一層考え始めたのは袴田事件を担当したことがきっかけです。袴田事件に関わってから約11年が経ちましたが、袴田さんの置かれた死刑囚という立場は続いています。
多くの裁判官が再審に関わるわけではありません。私は偶然関わり、再審法の問題点を強く感じた。それならば強く感じた私が再審法改正を訴えなければと。使命というほど偉そうなものではないですが、自分がやるべきことの一つだと思っています。再審法改正を目指す日弁連の再審法改正実現本部委員として、一般市民に再審法の問題点をわかっていただき、法改正を実現するための活動をしています。袴田事件を担当しなければ、委員を務めることはなかったでしょう。
ー袴田さん、姉のひで子さんに対して、いま思うことを教えてください。
袴田さんには、とにかく健康でいていただきたい。無罪判決が出て、真に自由の身になった暁には、願わくば袴田さん自身がそれを実感できるような状態になっていただけたらと思います。

ひで子さんに対しては、私は一人の人間として、心から尊敬しています。裁判所での陳述もとても堂々としていて、かつ、礼儀正しい方です。人間的に、圧倒されました。再審開始決定が東京高裁で取り消された時、ひで子さんは諦めないと。もう50年戦ってきたからと言われた。これからも、100年でもやりますよという勢いだったと思います。弁護団が、落胆したり憤ったりしている中で、ひで子さんの毅然とした姿はいまでも覚えています。

ひで子さんと袴田さん、ぜひともお二人が健康であるうちに無罪判決が確定して、巌さんが真に自由の身になって、少しでも長く生活していただきたい。おそらく、袴田事件に関心を寄せて支援しているみなさんが望んでいることでしょう。