◆植松被告をわざと挑発してみる

「急に怒り出す特徴がある」と鑑定結果が出ていることに佐藤さんは注目しました。佐藤さんは傍聴に行った時、閉廷後の法廷で直接挑発してみた、というのです。

佐藤幹夫さん:ちょっとしたことで怒りやすいことを、「易怒性(いどせい)」と言うようで、鑑定の中にあって気になっていた。それで、退廷して席を立つ時に、すごい馬鹿にしたような顔をして、「あんたはいろいろ偉そうに言っているけれど、所詮こんなもんじゃないの?」「みんなに馬鹿にされてるんじゃないの?」とみたいなことを、思いきり表情に込めた。「ちょっとこっち見ないかなー」と思ったら、ちょうど目が合ったんです。
そうしたら、パッと顔が真っ赤になって、上目遣いになって私をにらみつけてきた。すぐに刑務官に囲まれてそれで終わったんですけども、「あ!」と思いましたね。私の見たかったのはこの反応だ、と。

顔色を見ただけで、「馬鹿にされている」と思った瞬間に、真っ赤になって怒りだしたというのです。「易怒性」は本当なんだな、ということを、佐藤さんは法廷の中で確かめてみた、というのです。すごい取材方法ですね。


◆「戦争と福祉と優生思想」広さと深さ

この本の特徴は、「戦後史・現代史としてやまゆり園事件を描いている」こと。事件は「戦後福祉75年の“負の集大成”」なのではないか、と捉えています。福祉が形骸化し、形だけの福祉になっているという要素も指摘しています。戦争と福祉の関係、幅広く論考を進めていく形を取っています。

だから、サブタイトルは「戦争と福祉と優生思想」となっています。時代的には70年以上のロングスパンで深くものを見ていますし、戦争と福祉の関係にも踏み込む視野の広さがあります。私は会場で、こんなことを言いました。

神戸:RKB毎日放送の神戸と申します。福岡の放送局で記者をしていますが、東京に単身赴任していた時にこの事件に遭遇しまして、障害を持つ子の親として、記者として、取材をしなければいけないのではないかと、しばらく時間がかかってから覚悟をして、植松被告と面会を重ねていき、ドキュメンタリー番組を何本か制作しております。この「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」には、1メンバーとして参加してきましたが、福岡に戻ってしまったので、なかなか来られないでいたのですが、今回は本の出版記念ということで駆けつけてきました。私もこの取材にいろいろ絡んできていますが、今回の本はこの事件に関する決定版じゃないかな、と今の段階では思っています。

「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」を続けてきた仲間たちの、現段階での「集大成」みたいな形になっているんじゃないか、と思います。私たちがどんな社会に生きているのか、関心のある方、ぜひお読みください。

神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。