「疑わしきは被告人の利益に」を肝に据える

そもそも「疑わしきは被告人の利益に」が司法裁判の鉄則なんですけれども、法学を勉強したことがあると、法律というものは道具なので、すごく抑制的に使うというトレーニングを受けるんです。脳の思考方法として。

私もメディアに出るのでこれは自戒も込めてなんですけれども、何か事件が起こると、ワイドショー的に「この人が怪しいんじゃないか」みたいなことから、何となく世間が「怪しい人! やったんじゃないか」みたいな風潮を作り出してしまうというところがあると思うんですよね。

だからやはりメディアで発信する側が、いかにそれを抑制的に「疑わしきは被告人の利益に」ということが徹底できるかどうかというのは、これはもうマスコミの人とかもそうですし、メディアを使う人、もちろん今で言うとSNSなど自分のメディア使う人たちも、本当にそこをもう一度肝に据えないといけないなというのは感じるところなんですね。

検察は控訴断念を

証拠の捏造がなされていたということとか、証拠で出てきたあのズボンが小さすぎて、袴田さんが履くと太ももの辺りで止まって着用できなかったという写真があるんですけど、それが証拠として出てきました。

でもそのズボンを「証拠だ」と言い張った状況があるということを考えると、「捏造もされてしまうんだな」と思いますね。袴田さんにまず権利救済をすることが一番大事で、姉の秀子さんがずっと「無実だ」と訴えてきたことを重く受け止めて、本人と家族に対して補償していくという問題が私はあると思います。

何より「検察が控訴しないでほしい」っていうことは強く訴えたい。これ、まだ決まってないわけで控訴するかもしれないという状況です。

今の科学の力で「血痕などをDNA鑑定したらおかしい、捏造されたものである」みたいな話になってきているにも関わらず、それを頑なに認めようとしない検察の態度に対して、国民世論も含めて皆さんの「やっぱりおかしいんじゃないか」という市民の声も考えて、もう控訴しないでほしいと願っています。

再審の期日を決められるよう法改正を

それと併せて、再審請求に時間がかかり過ぎているんです。もう本当にこれがひどいんです。再審って実は期日を決めなくていいんです。法律上、裁判というのは公判日を決めなきゃいけないんですが、再審の日は決めなくていいんですよ。そういう法律の規定になっていて、法律の不備が指摘されています。少なくとも改正してもらって、再審の期日もちゃんと決められるようにしてもらいたいです。

じゃあ法律ってどこで改正するんだ? って言ったら国会がやるわけですよ。だから、ちゃんとした国会論戦がなされる社会の中では、こういった再審の話もきっちりと議論されるんだろうと思いますが、なんか世間がややこしいから法律改正するだけ、みたいな話はやめてもらいたいし、さっさと改正して再審の期日が決められるようにしてほしいというのが大きいですね。

袴田さんの再審、長すぎるんですよ。それって人生がどんどん壊れていくということになりますので、ちゃんと再審を早くするということが必要です。今、実は法学者の声明を出そうとしていて、九州大学の田渕浩二教授とか豊崎七絵教授とかも呼びかけ人になって、もうすぐ声明が出ると思います。

私も賛同人になっていますが、法学者たちもやっぱりおかしいと思っていますので注目していただけたらと思います。