この日初めて顔を合わせた高校生
実はこの撮影、高校生自らカメラを回して、ドキュメンタリーを制作するための教材をYahoo!ニュースが作り、7月からN高とS高をモデル校にして開始した授業の一環で、全国で7つのチーム(4人1組)が撮影を始めています。高校生はなぜ、福岡県に撮影に来たのでしょうか。

神戸:
「お母さん大学」を取材してドキュメンタリーにしようと思ったのはなぜなんですか?
宮城樹力さん:
まず、全員いろんな場所に離れていて、集まれる場所が限られるので、「じゃ、どこがいいだろう?」とこの地域に絞って調べた時、ホームページとインスタグラムがすごくひんぱんに更新されていたことと、今も自主的に活動していることがわかったのと、今回我々が作りたいショートドキュメンタリープロジェクトにちょうど合う活動をしている団体だとわかって、初めて連絡を入れさせてもらうことになりました。
神戸:
4人のメンバーが、今までリアルに会ったことはあったのですか?
宮城さん:
ないですね、今日が初めてなので。Zoomのカメラを通して顔合わせした感じで。
神戸:
仙台から来て初めて会って、みんなの印象はどうでした?
川音怜翠さん:
私たちのチームは、他のチームよりもミーティングをひんぱんに行っていて、仲の良さは結構一番だと思うんですけど、今日初めて会った気がしなかったですね。
カメラマンは鹿児島、プロデューサーは岐阜、インタビュアーは仙台。欠席の1人は福岡だったんですけど、集まりやすい場所としてまず福岡を選んでから、ターゲットを絞っていく。ネット社会ならではの取り組みなのでしょうね。「初めて会った」と言うのにはちょっとびっくりしました。
「頭で考えた企画書より、現実は面白い」
一方で、「現場で取材をする」ということが、ドキュメンタリーにとって一番大事。やっぱり、行ってみたら予想と違うわけです。そういうことが僕らの取材ではとても大事なので、みんながどう思っているのか気になっていたんですが、撮影後にこんな発言がありました。

神戸:
カメラワークはどうでした?納得できる感じで撮れた?
山下竜之介さん:
すごく撮れましたね。1週間前から、ドキュメンタリー用のカメラワークの勉強をすごくしていて、自分の勉強の成果も発揮できたかなー、と。
宮城樹力さん:
行ってみるのとオンラインでやるのって違うし、集合場所はみんな手間取っちゃったんですけど、やっぱり「調べておけば」とかはあるんですけど、逆に「調べておかなくてよかったな」と思うこともあったと思います。
宮城さん:
お母さん大学の方たちのことも調べてはいたんですけど、めちゃくちゃ細かくまでは調べていなかったんですよ。だからこそ、わざわざ知っているのに聞いたというより、本当に初めて聞いて、初めてリアクションしたという体験を、写真や動画に撮れたというのがすごく良かったことかな、と思いますね。
神戸:
ばっちり作れるかな。
宮城さん:
作れます、はい。めちゃくちゃ良い動画にしてみせます。
この発言は、なかなか本質的です。取材現場に行って「あー!」と驚いたことにとても意味があります。事前取材したところよりも、むしろそっちを出したくなります。頭の中で考えた企画書より、リアルの現実は面白い。どんどん企画書の方を変えていけばいい。それがドキュメンタリーの一番面白いところじゃないかと僕は思っています。宮城さんたちもそういう体験をしていて、すごくいいな、と思いました。
高校生たちは、編集もオンラインで進めていて、3分半の動画がほぼ完成してきているそうです。作品は、札幌国際短編映画祭のMicroDocsU18部門に出品するということです。
現代的な高校生の活動にはびっくりしましたが、リアルを知って、ドキュメンタリーを作る苦しみや喜びを少しでも感じてもらえたらいいな、と思いながら僕は取材していました。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材に、ラジオ『SCRATCH 差別と平成』(2019年)、テレビ『イントレランスの時代』(2020年)・『リリアンの揺りかご』(2024年)を制作した。