…え? 江戸時代の広島にゾウ?! でもファンタジーじゃない!
当時を知る小林さんは、これは史実に基づいた表現だと力説します。
小林正典さん(当時、広島市の観光課長):
「不思議に思って調べたんです。江戸時代にゾウが日本に来たことは、当時、大注目されていて、まさに『ゾウフィーバー』だったようです。かわら版も出たし、色んな本にも書かれていました。ゾウがたどったルートは長崎から江戸。広島でも道路が整備されて、橋も補強されました。ただ広島では、安全にゾウを見送るために『とにかく静かに』と御触れが出ていたんです。広島城下には、夕方着いて朝早く出発したゾウを、広島の人は簾の奥から見ていたはずです」

さらにこの壁画が面白いのは、その後の「修復作業」にありました。
完成して20年経った2009年、色あせた部分を蘇らせるべく、入野さんは、5年に渡って少しずつ壁画を塗り直しました。その作業は「修復」に留まらなかったと、妻の泰子さんは言います。
入野さんの妻・泰子さん:
「元々は、場面ごとのコマ割りがしてあったんですが、修復時に主人は『絵巻物』にしたいと考えたんです」

入野さんは、コマ割りの線を消し、背景の色を統一させて、場面につながりを持たせて描きかえていきました。

RCCの映像資料には、入野さんと妻の泰子さんが、仲睦まじく夫婦で壁面に向かう姿が残っています。当時取材した記者も、「泰子さんが通行人が通る度に挨拶されているのが印象的だった」と振り返ります。

入野さんの妻・泰子さん:
「元々は歩道に脚立を立てるために、見守りが必要で付き添ったんですけど、最後の年は心配で・・・」