裁判官から最後に何か言いたいことはありますかと問われた哲也さんは…。

(哲也さん・裁判で)
「もっと簡単に介護の援助を受けられる、そんな世の中になったらいいなと思います」


逮捕からおよそ2か月後、哲也さんに判決が言い渡されました。

(裁判官)
「主文、被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。」

これまでの証拠から、裁判官は、哲也さんが、自らもがんを患って闘病生活を送りながら、体が不自由な亥聖子さんを献身的に介護していたことを認めました。

そのうえで、「亥聖子さんは次第に衰弱し精神的にも落ち込んで『死にたい』などと漏らすようになっていた。被告人は、介護の負担が増していくと同時に被告人自身の体力も低下し、状況の好転が見込めないなか、心身ともに限界を感じて犯行に及んだ。承諾があったとはいえ、人を殺害する行為は決して許されるものではない」と指摘しました。

一方で、裁判官は、犯行に至った経緯や動機については、「酌むべき点が多分にある」と、こう述べました。「介護支援専門員から亥聖子さんを施設に入所させることを提案されるなど、被告人の負担を軽減し得る選択肢もあったなか、自ら在宅介護を続けることを選び、結果的に本件犯行に至ってしまったことは悔やまれる。しかし、介護を続けたのも、妻の意思と、妻の面倒を最後まで見たいという被告人の思いによるものであり、強く非難はできない」

判決を言い渡した後、裁判官は、哲也さんに次のように声をかけました。「村武さんは、別の罪を犯すことはないと思います。長いこと奥さんのために尽くしてきたと思いますが、これからは自分のことを第一に考え、体を大事に、心穏やかに過ごしてください。それでは、閉廷します」

裁判の関係者や傍聴席の私たちが立つと、哲也さんもゆっくりと車いすから立ち上がり、「ありがとうございます」と言い、一礼しました。

哲也さんは、あまり顔を動かしませんでしたが、傍聴席に一通り目をやっていました。拘置所で面会した私とも、目が合ったように思います。私がこれまで取材した裁判の場面で、最も忘れられない時間でした。

その後、拘置所の職員から車いすを押されて法廷を後にしました。

判決は確定し、哲也さんは、そのまま入院しました。

入院中の哲也さんに、私はお会いすることは叶いませんでしたが、回復して、元気になってもらいたい。穏やかな余生を送ってもらいたい。取材としてだけではなく、もう一度お会いして話をして、いろいろなことを聞かせてもらいたい…。そう思っていました。