妹と二人、九州へ
妹と2人、両親の『お骨』を1人分ずつ首から下げて帰国し、熊本にいた父方の親戚のもとに身を寄せました。
そこでは葉たばこを栽培していて、朝4時に起きて草刈りをしていました。何を手伝ったらいいかも分からない中、吉村さんは長崎に働きに出ることを決意します。
吉村光子さん:
「長崎はその時分 “三菱王国”で、私も長崎に行って働けば何とかなるんじゃないだろうかっていう気持ちが、ずっとあったんですよ。
『自分の身が立つようになったら 妹もその時は引き取りますので』っていう約束で出たわけ。長崎に母方の親戚が何軒もいたし、妹もお世話になられればとも思ったけど、それだけ言う権利も頭もなかったので、とにかく自分は一生懸命働かなきゃと思って」
工場から逃げ出ると 川が真っ赤に血で染まっていた

就職先は三菱兵器製作所 大橋工場(爆心地から1.1キロ)。被爆当時22才。
吉村光子さん:
「11時2分でしょ、ピカー…何とも言えない光。青い様なピンク色の様な虹がかった光ですよ。え?何あれ?ってお互いが顔をみあわせたらバー!って物凄い音と一緒に爆風でガラスがチリヂリー…っと飛んできたんです。みんなガラスでやられとっとです。
私は右側、向こう側のもんは左側。そうしたらガーっと上から(天井が)潰れてきたですよ。側に金庫のあったけん私はよかったんです。すき間があったから。課長からそびき(=引き)だされて、2~3人で連れ立って外に出ようと、割れたガラス戸の枠を足で蹴ったくっても扉は全然開かない」

右半身に無数のガラスが突き刺さった吉村さん。潰れたドアからなんとか外に出ると、阿鼻叫喚の世界が広がっていました。

吉村光子さん:
「やっと外に出たら工場の方から頭から血は噴き出し、背中いっぱい…腰まで肉のついた自分の皮を引きずるようにして飛んで逃げてくる。
肩から血はぷっぷっ吹き出しよっとに、その腕ばしっかり抱えて走ってくる…。
一人一人見る暇はなかったですけど、そういう2~3人の人の姿を見ただけで自分も一生懸命になって走ったけど。
裏はすぐ川でしたから、真夏ですので浅い川。枯れた葦(よし)が植わっているような…見たら血だらけ。人が折り重なっていて真っ赤な血…血が流れてるような感じですよ」

吉村さんは横たわる人を踏み越え飛んでくるB29から身を隠しながら山を越え一日かけて女子寮があった市の中心部へと歩きました。

しかし寮として使われていた料亭の中は大破して誰もいない。一緒に山を越えた工場の守衛さんは力尽きて動けない。吉村さんは1人、爆心地付近に家があった親戚を探しに《焼け野が原》へ戻ります。