シャインマスカットが鮮やかに実る季節。
ハンディキャップを乗り越えて挑戦を続ける男性が取り組む『シャインマスカットひと房オーナー制度』が新潟県上越市にありました。

1本のブドウの樹から拡がる、開花から収穫までの“交流”を密着しました。

5月。カーポートを覆う緑のカーテン。
実はこちら、シャインマスカットの花なんです。


【下鳥幸彦さん】
「いま75個くらい。108の芽が出たんだけどそれから切り始めて…。まだこれから少し切り落としするけどね」

このシャインマスカットの苗木の持ち主は、下鳥幸彦さん(59歳)。
シャインマスカットの栽培を始めて今年で7年になりますが、こんなにたくさんの花が咲くのは初めてだと話します。

たくさん咲いた花を見て下鳥さんが思いついたのが『シャインマスカットひと房オーナー制度』。およそ70房のひとつひとつにオーナーがいて、剪定や袋掛けなどはオーナー自らで世話をします。

【下鳥幸彦さん】
「ひとりひとりオーナーがいるんだよね、お金がかからないオーナーです。だからたまにオーナー見に来るよ。それが楽しいんだ」

オーナー制度の参加費用は無料。
下鳥さんの知り合いのほか、口コミで知った人などおよそ50人が参加しています。
収穫したシャインマスカットは持って帰ることができます。

下鳥さんのご厚意で『BSNニュース ゆうなび』取材班もオーナーになることができました。

『ゆうなび』が下鳥さんに出会ったのは2022年の3月のこと。
上越市のアトリエ ユキに展示された、美しく輝くランプや、色とりどりの魚たちが泳ぐ大きな絵…。

「この細かいのが魚なんですけど、何千個を貼り合わせたかわからないですね…」

すべて下鳥さんが手掛けた作品です。


下鳥さんは49歳の時に脳出血で意識不明の状態が2日間続き3か月入院しています。
一命はとりとめたものの、思うように体を動かせなくなってしまいました。

人に会ったり外に出たりすることを避けるようになった下鳥さんの様子を見かねてドライブに連れ出すようになった妻のかつ美さんがある日、海辺で拾ったシーグラスを使った作品作りを勧めてくれたそうです。


自由に動かすことのできない体で試行錯誤を重ねていくうちに、麻痺が残っていた下鳥さんの右手が少しずつ動かせるようになっていきました

「まず歩けなかったし、体の半分が全然もう動かなかったですね。ずっと落ち込んで…。3年くらい落ち込んでましたね」

そんな下鳥さん、自ら新たに始めた『シャインマスカットひと房オーナー制度』を通じて、これまで挨拶をする程度だった近所の人との関係が深まったり、さらに新たな交流を持つきっかけにもなったといいます。

「管理人」の下鳥幸彦さんは「オーナー」たちに、時にはアドバイスを、時には世間話も楽しみながら、シャインマスカットの成長を優しく見守っています。

シャインマスカットオーナー第1号は、下鳥さんの親友・広沢宏さん。
オーナー制度をきっかけに下鳥さんのアトリエを訪れる機会が増えたそうです。

7月。
ぶどうのひと房ひと房にオーナーそれぞれの個性豊かなイラストが描かれた袋が掛けられ、緑のカーテンが彩られていました。

【オーナー】
「どうしてシャインマスカットが高いのかが分かりました。丁寧に丁寧に育てて完成するぶどうなんだなと」

シャインマスカットの粒も、アトリエの下で拡がる交流の輪も、共に大きく実りつつあります。

8月。
粒も大きくなり収穫の日は近づきます。

【下鳥幸彦さん】
「まだもう少しだね、収穫まで1週間くらいじゃないの?食べちゃおうかな…あっ美味しい!!うん、これは美味しい」

シャインマスカットの「管理人」下鳥幸彦さん


いよいよ迎えた収穫の日。

【ご近所のオーナーさんたち】
「せーの。甘い!糖度すごいです!」
「同じ町内にいながらなかなか交流する機会のない方々とも、シャインマスカットを通じて交流できたということは、いい経験。良かったなというふうに思います」

皆の笑顔を見て満足そうな笑みを浮かべる下鳥さんは、オーナー制度による交流や創作活動に挑戦する姿を見せることで今後も、同じ悩みを持つ人の力になりたいと話します。

【下鳥幸彦さん】
「自分の気持ちも明るくなった。自分でくよくよしてたらいけない、頑張らなきゃいけないなと。来年もたくさん芽がでたら、違う人とも交流したい」


一本のブドウの樹から伸びる枝葉のように、これからも下鳥さんの世界は拡がっていきます。