貴重な生き物たちが暮らす世界最大の干潟

もうひとつ、潮の満ち引きが生み出す壮大な景観を誇るのが世界遺産「ワッデン海」。オランダ、ドイツ、デンマークの三カ国の沿岸、実に650キロもつづく世界最大の干潟です。全体の三分の二が潮が引いたときに陸地となり、場所によっては10キロ先の海の上まで歩いて行くことが出来るようになります。満ち引きは約6時間ごとに起き、水位の差は大きなところで4メートルもあって、砂と水が作る風景は時間と共に変化していきます。

ワッデン海を撮影していて、不思議な光景を見つけました。なんと海の真ん中に家が浮いていたのです。実は渡り鳥を観察するために、レンジャーが寝泊まりする家。ワッデン海にはイソシギやコオバシギなど、約1000万羽もの渡り鳥が、繁殖や越冬のためにやってきます。ワッデン海の干潟は、鳥が食べる貝などが豊富。湿地とそこで暮らす水鳥を保護するために制定された、ラムサール条約の登録湿地にもなっています。
ワッデン海は北海に面しているのですが、その境界には細長い島々が長大な防波堤のように続いています。実際、北海の荒波がこの島々によって防がれているため、ワッデン海の波はおだやかです。この地の利を生かしているのが、アザラシ。北海でニシンなどを食べて、静かなワッデン海に移動して昼寝したり子育てしたり・・・ここには4万頭近いアザラシが暮らしていると言います。
貴重な生き物たちが暮らす世界最大の干潟、海に浮かぶ修道院、毎日水没する街。このように潮の満ち引きは、さまざまな世界遺産を育んできました。まさに「母なる海」です。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太