「順当に行けばワンツーの期待感もあります」。日本陸連強化委員会競歩シニアディレクターの今村文男氏が、オレゴン大会の男子20km競歩についてコメントした。

前回の19年世界陸上ドーハ大会金メダルの山西利和(26・愛知製鋼)と、東京五輪銀メダルの池田向希(23・旭化成)。山西は東京五輪でも銅メダル、今年3月の世界競歩チーム選手権でも個人金メダルを取った。池田はドーハ大会こそ6位だったが、18年世界競歩チーム選手権個人金メダル、今年の同大会個人銀メダル。2人とも至近の世界大会4レースで3つのメダルを獲得している。
世界陸上では93年シュツットガルト大会女子マラソンで金銅メダルを獲得しているが、金銀を取ることができれば五輪を含めても史上初めての快挙となる。

負けず嫌いの山西と挑戦することに重きを置く池田

金メダルへの意欲を、はっきりと口にしているのは山西の方だ。

「(東京五輪は)正直なところ、金メダルを取りたかった。どこまで行ってもその思いは抱えながら生きていくと思う。改めて自分が、負けず嫌いなんだな、と感じました」

金メダルへの思いが強い一方で、そのためにはトレーニングや歩きの技術を突き詰めていく。

「東京五輪以降は集団をどうコントロールするか、メンタル面、技術面を洗い直してきました。まずはやってきたこと、自分の思いをパフォーマンスに込めることが大事ですが、その上で支えてくれる方たちに感謝の思いが届くレースができて、結果として金メダルにつながればいいですね。日々の取り組みで足りない部分があるんじゃないか、という不安感もありますが、それを超えていった先にどんな景色が見えるのかも楽しみなんです」(6月6日の取材時コメント)

対する池田は金メダルへの思いは? という質問に対し「まずはメダルというところに重点を置いています」と答えた。

「この先国際大会が(23年世界陸上ブダペスト大会、24年パリ五輪、25年世界陸上と)毎年続くので、狙った大会全てで安定した成績を残すことを目標にしています。パリ五輪を意識しながら今回のオレゴンも成績を残したい」

つねに挑戦者であり続けたい、という気持ちが大きいからだろう。高校時代は同じ静岡県の川野将虎(23・旭化成/50km競歩東京五輪6位入賞)の背中を追い続け、東洋大ではマネジャー兼務からスタートし、積極的なスピリッツで世界に挑戦してきた。国際大会がなく世界を意識しづらい間は、山西に挑戦してきた。

「私はまだまだ追う立場。そこが変わらなければ崩れないメンタルで戦えます。銀メダルを一度獲ったからといって、プレッシャーを感じる理由はありません」

金メダルよりも挑戦する姿勢を重視するのが池田である。

山西は「レースを動かす力」にも進境

東京五輪
山西は世界陸上ドーハでは勝てたが、東京五輪では銅メダルと敗れた。敗因はレース展開とメンタル面にあった。

4kmで飛び出した王凱華(28・中国)を追いたいと考えたが、自身が動かないと2位集団が王を追わない状況に戸惑った。結局、山西が2位集団をずっと引っ張る形で12kmで王に追いついたが、そこで消耗してしまった。後ろを歩いたM.スタノ(30・イタリア)と池田が、結果的に18kmからの勝負どころで山西に競り勝った。

国内では前半から自身が主導権を握っていたが、世界大会ではドーハがそうだったように、集団の動きを見ながらレースを進めていた。

「東京五輪では周りが動いてくれませんでした。ドーハの結果で有力選手の1人から、本命と言われる立ち位置になったからです。その状況で勝ちきるには、自分でレースを動かす力を付けないといけません」

一番の解決方法は、単独で歩いても後続を圧倒できる力を付けること。「東京五輪の男子マラソンでE.キプチョゲ(37・ケニア)選手が見せたようなレースができれば理想です」

だが、それを今すぐ行うことはできない。もう1つの方法は「心の持ちようの問題でもある」という。「東京五輪まではリスクを負いたくないと思って、他の選手に“お任せ”でレースを進めていました。東京五輪ではリスクを負いたくない気持ちと、自分で行かなければいけないな、という気持ちが上手く噛み合っていませんでした」

オレゴンでは自分が行くなら行く、行かないなら行かないと、迷いなく歩くだろう。3月の世界競歩チーム選手権では国別対抗戦のことも考えて、4km過ぎから山西がリードし、池田に8km過ぎで追い着かれてマッチレースとなった。だが11km手前から山西がペースを上げ、後半を独歩して優勝した。

オレゴンでも同じ戦術を行うとは限らないが、すでにシミュレーションはできている。