今回は「難病患者の就労」について考えます。「難病」の定義は、難病法によりますと“発病の機構が明らかでなく、治療法が確立していない希少な疾病であって、長期にわたり療養を必要とする”としています。

難病「多発性硬化症」の患者が語る、就労の困難

まず、難病について理解するために「多発性硬化症」という難病を治療している神奈川県在住の美容師・鳥居さんにお話を聞きました。多発性硬化症は、脳や脊髄、目の神経のあちらこちらに病巣ができて、症状が「再発」したり「寛解」したりを繰り返す病気です。身体のしびれや痛みなどその症状は多岐に渡り、日本国内の患者数はおよそ2万人とされています。現在は40代の鳥居さんですが、不調を感じ始めたのは20年前だといいます。

「多発性硬化症」患者の鳥居さん
「24歳の時に突然しゃっくりが出始めてそれがずっと止まらなくて、食べたものとか飲んだものとかを全部しゃっくりでもどしちゃうっていう状態になって栄養失調になって入院したんですね。で、2年後くらいにまた別の症状が出て来て色々と検査とかをしてもらったら多発性硬化症というふうに診断されまして。僕の場合は手足のしびれであったりとか、あと視力の低下だったりとか運動機能の低下が大きいなとは思いますね。あとは免疫力がすごく下がるので、色々な病気にかかりやすいというのはあります」

しゃっくりも多発性硬化症の症状の一つ。人によっては顔の感覚の麻痺もあるといいます。鳥居さんは、2年おきくらいで再発しては入院してリハビリといったサイクルを繰り返してきたそうで、身体のしびれや背中や首の痛み、そして下半身まひや、それに伴う排泄障害など色々な症状で大変苦しまれたそうです。体調によっては仕事中の休憩が多くなったり、また当日に休んだり、急に入院しなければならなくなったりすることも重なり、「同僚にはきっと理解されていないな、よく思われていないな」と感じていたとも話してくれました。

「多発性硬化症」患者の鳥居さん
「症状が分かりづらいので、車いすに乗っていたり、杖を使って歩いていたりすれば、体のどこかが悪いんだなっていうのが一目でわかると思うんですけれど、見た目的には病気なのかなってわからないんですよね。なんですけれど僕の体の中ではやっぱり首も痛いし、背中も痛いし、手足も痺れるし。普通に日常生活も送れているので、周りの方からすると多分僕が病気だっていうのは僕から言わないと多分分からないんですよ。理解されづらかったりとか、なんであの人休んでるのかなとかそういった部分での差を感じましたね」

発症したころは同僚たちが鳥居さんの(症状の)急な再発や当日の欠勤を理解するのが難しかったそうですが、根気よく話したり、時間をかけて病状の説明をしたことで、配慮してもらえるようになったといいます。今は、鳥居さんは独立して自分で美容院を経営していますが、それと並行して今後は当事者として、治療や仕事についての経験を難病で悩む人たちのために発信していきたいそうです。