「不満の受け皿を政治的な力にする」

トランプ大統領誕生の可能性に世界が戦々恐々としているが、ヨーロッパでは既に不穏な動きが始まっている。“右傾化の波”だ。
この選挙イヤー。欧州だけでも15か国で大統領選や議会選挙が予定されている。中でも注目はEU市民約5億人の直接選挙で選ばれる『欧州議会』の選挙だ。実は欧州議会における極右政党の議席数が10年前には36議席だったのに対し、今年2024年の選挙では91議席に伸ばすことが予想されている。EUの政治に詳しい筑波大学の東野教授は選挙のたびに右傾化は顕著になると語る。

筑波大学 東野篤子教授
「2019年の欧州議会選挙で極右政党が特に議席を増やし大騒ぎになりました。で今回の動きを見ていると極右政党はまた躍進するとみられ…。大変心配な状況です」

右傾化は国民の不満の表れだと渡部恒雄氏は言う。

笹川平和財団 渡部恒雄 上席研究員
「ヨーロッパでもアメリカでも現状に不満を持った人たちがいる。その不満の行き先が、例えば自分たちの経済が上手くいかないのは移民が来るからだとか、外から安い製品が入ってくるからだとか…。その不満の受け皿を政治的な力にするんです、政治家は。今に始まったことじゃなく、歴史的にそうしてきた。残念ながら、(不満が募れば右傾化)そういうことは起こりかねない…」

右傾化は独裁・専制につながり、それは民主主義とはかけ離れた場所に位置すると思われてきた。しかし、ヨーロッパの右傾化も、アメリカでトランプ政権が生まれるとしても、どちらも国民による民主的な選挙が選んだ結果だ。つまり…。

「ドイツは民主的な手続きを経てナチスを成立させユダヤ人を虐殺」

民主主義を続けている先に誕生する専制国家がある。
例えばフィリピンで独裁体制を築いたドゥテルテ政権は国民の熱狂的支持を集めていた。だがそれはSNSを使ったフェイクニュースで民衆の支持をコントロールしていたことが後に暴露された。これを暴露し偽情報の危険性を書いたことを評価されたジャーナリスト、マリア・レッサ氏はノーベル平和賞を受賞している。こういったケースについて専修大学の武田徹教授は「SNSを駆使して下から自発的動員を実現する独裁国家は民主主義国家のひとつの未来形だ」と話す。

元駐米大使 杉山晋輔氏
「これは民主主義に対する非常に大事な警告だと思う。過去一番典型的な例は、ワイマール憲法下、ドイツは民主的な手続きを経てナチスを成立させユダヤ人を虐殺させた。決してやってはいけないことが民主的な手続きで行われた。それを学ぶべきだということ。これからはさらに加速する…。あの時代SNSがなくても民主的な手段で大衆を動員した」

草の根運動はこれまで民主化運動に用いられた言葉だが、これからは“草の根運動”が生む独裁国家、専制国家があるということ。ポピュリズムと熱狂、民主主義の最も危険な側面だ。

(BS-TBS『報道1930』1月8日放送より)