民進党政権が続けば「台湾有事」の可能性は高まるのか
Q.中長期的な視線で見た場合、中国は態度をより硬化させ、武力による統一に舵を切る可能性は高まるのでしょうか。
松本教授
中国側の方針は、基本的に変わらないのではないかと考えています。今後も「台湾の政局の変化」に関係なく習主席の掲げる「両岸の経済・社会の融合的発展」を図ることで「平和統一」の実現を目指すのではないかと考えています。経済・社会の融合的発展について習主席は「両岸の各領域での交流と協力を推進していく」としていて、これは言い換えてしまえば「民間交流」です。中国はこれまでの民進党政権下の8年間においても、台湾との民間交流を通して進めてきました。
つまり、中国は公式の窓口での対話を拒否しながらも、着実に「融合的発展」を進めてきたのだといいます。
松本教授
中台双方では民間の窓口機関が設立され、それを通じて対話と交流が行われていましたが、民進党の蔡英文政権が誕生すると、中国側は一方的に窓口機関による対話の停止を発表しました。民進党政権期のこの8年間、窓口機関のトップ会談は行われていません。しかし、中台間では貿易や投資が行われていますし、さまざまな民間団体の交流も進められてきました。また、中国側は中国国内での台湾企業への優遇措置や、台湾の若者の就業や起業を支援する措置を打ち出しています。民進党政権が継続した場合でも、中国はこれまで同様、軍事的・非軍事的手段を使って圧力をかけ、政権を牽制しながら、その一方で、さまざまな領域で民間レベルでの交流拡大が図られていくものと考えられます。政権の頭越しに、野党との間で農水産物の輸入再開などが協議されるかもしれません。
国民党に政権交代すれば「統一」に向け加速?
一方、頼氏を追う国民党の侯友宜氏は中国との対話や交流を重視する姿勢です。侯氏自身は中国による「統一」「一国二制度」には反対していますが、国民党の立法委員(国会議員に相当)や地方議員を取材すると「ゆくゆくは中国に統一されるべき」「統一されても香港のように民主や自由は奪われない」といった声も聞かれます。
Q.国民党政権になった場合、統一に向けた動きは加速するのでしょうか?
松本教授
国民党や民衆党に政権が交代した場合、まず窓口機関の対話が再開される方向に向かうだろうと思います。そして「サービス貿易協定」などを実施し、中台間の経済交流の拡大が図られていくものと思われます。
「サービス貿易協定」とは2013年の国民党・馬英九政権時に台湾と中国との間で締結されたもので、医療や金融などの分野で双方の市場を開放しようという試みです。しかし経済的に中国に取り込まれることや、印刷、広告分野の開放によって台湾の言論の自由を脅かすのではないかという懸念が広がり、学生らが立法院(国会議事堂に相当)を占拠する「ひまわり学生運動」へと発展。現在まで棚上げ状態となっています。
松本教授
これは「両岸の経済・社会の融合的発展」を図りたい中国側にとって望ましい状況と言えます。中台の間の経済交流が拡大すれば、モノやカネだけでなく人的な動きも活発化して、長期的には経済や社会の統合が進んでいくと期待されるからです。ただし、米中対立や中国の投資環境の悪化から、台湾から中国への投資は近年大きく減少しています。
繰り返しになりますが、侯氏は中国による「統一」「一国二制度」には反対しています。そのまま統一まっしぐら、とは考えにくいようです。
松本教授
台湾では大多数の人が、統一でもなく独立でもない「現状維持」を望んでいます。侯氏が当選した場合、彼はそうした台湾の民意をバックにしているわけで、簡単に統一を受け入れることはできない。そこで中国は、国民党の中では特に中国側とつながりが深い政治家、あるいは中国と友好的な団体や人物との関係を利用して、統一のための協議の実現に向けてじわじわと影響力を行使していくものと考えられます。