レディー・ガガや、キム・カーダシアン、ケイト・モスなど数々のセレブリティを虜にしたラテックス素材の衣装を手がけたのがロンドンの日本人デザイナー・工藤亜津子さんだ。

医療用にも使われるゴム素材「ラテックス」で作り出す官能的なスタイル。
これを通じて伝えたい、工藤さんの思いを聞いた。

ブティック「アツコ・クドウ」の世界

ノースロンドンにある、黒色の外観が印象的なブティック「アツコ・クドウ」。

決してオシャレな街とは言えない場所にたたずむショップに足を踏み入れると、“ラテックス素材”が光を放つ、妖艶な空間が広がっている。

ラテックスは、ゴムの木から出る液体で作られた素材。柔らかく伸縮性に富み、ゴム手袋や風船、コンドームの原料としても知られている。

日本人デザイナーの工藤亜津子さんは、そのラテックスのみにこだわった衣装を、20年以上作り続けている。服だけではなく、帽子やバッグ、ランジェリーなど多岐にわたる。

なぜデザイナーに?

千葉県・市原市生まれの53歳。小さい頃からキューティーハニーなど、セクシーなものが好きで「女性が好きな服を着て自由でいられること」が大事だと考えていたという。

その後通った、東京のファッション専門学校で、ラテックス素材に出会い、魅了された。

工藤さん
「ラテックスの服は普通と違って変わっていて、なんか面白くて。学生時代にラテックスで作った服を着て、ナイトクラブに行く前に、スーパーマーケットに寄ったらびっくりされました。ラテックスを着ると、スーパーバージョンになれるというか、パワーをもらえたと感じたんです。それで他の女性たちにも、ラテックスを着てもらって、エンパワーしたいと思ったのがきっかけです」

なぜロンドンに?

イギリスは、パンクファッションの火付け役となったヴィヴィアン・ウエストウッドなど、すでにファッションにラテックス素材を取り入れる歴史があったことから、工藤さんはラテックスの世界を追求しようと1992年に渡英。

語学や演劇の衣装デザインを学んだ後、SMグッズなどを制作していたセクシーショップで働き始め、そこで夫となるサイモン氏と出会う。

アルバイトしながら、独学で衣装の作り方を研究し、2001年にブランド「アツコ・クドウ」を立ち上げた。

工藤さん
「SMのマスクを専門で作っている人に、ラテックス素材での作り方を教えてもらったんです。縫うのではなく貼ったりするのですが、当時日本で知っている人は、いなかったんじゃないでしょうか。ただ、私が結構ノロノロしていたので、すぐにクビになって。1か月ももたなかったんじゃないかな。でも、製作ではなく販売などの形で、少しだけ働かせてもらいながら、どうしたら衣装にできるか研究していました。貧乏生活でしたから、なるべくお金をかけないように」

その後、ラテックスにこだわり衣装を作り続けていたところ、少しずつ他の店で販売してもらえたり、ファッション誌にも取り上げられたりするようになった。

レディ・ガガとの出会いがラテックス素材の”歴史を変えた”

工藤さん
「ガガさんとは、2009年6月のグラストンベリー・フェスティバルの時に、初めて直接会い、翌日のパフォーマンス用に衣装を頼まれました。納期が短いのは、ガガさんが1日に何種類も衣装を着ていたので、すごく忙しかったからだと思います。もう少し時間があれば、もっと作れるのにとは思いましたが、仕方ないです。パフォーマンスの直前、ぎりぎりまで衣装の微調整を行ったことも。2分前まで作業していて、その後ガガさんはすぐにステージに出る。すごいですよね。そういう女性たちって、やっぱり頑張り屋というか、色々教わることがあります。とてもクリエイティブで刺激になります」

その後も、レディー・ガガから注文が相次ぎ、「ボーン・ディス・ウェイ」のPVやライブ、プロモーションでの衣装など、これまでに制作した数は小物も含め100点以上に及ぶという。

中でもラテックス素材にとって「歴史的な転換点」になったと工藤さんが感じた出来事がある。