「アイヌ感謝祭」というイベントが11月25日に新横浜で行われました。日本の先住民族であるアイヌは、首都圏に5000人から1万人が暮らしているといわれていて、首都圏に住むアイヌの活動にかかわる人々に感謝をささげる場としてこの祭りが開かれています。

祭りは、アイヌの楽器ムックリから始まる

「アイヌ感謝祭」の主催はアイヌが集まる場所、文化を発信する場所を自分たちで首都圏に作ろうと活動している「チャシ アン カラの会」。その会長の島田あけみさんのあいさつです。

「チャシ アン カラの会」会長の島田あけみさん
「皆さん、イランカラㇷ゚テー(こんにちは)。これから始めたいと思います。今年はマオリが24名くらい来てくれるんです。もう本当に私は舞い上がっています。きょうは短い時間じゃなくて長い時間ですけど、皆さん楽しんでいってください」

マオリはニュージーランドの先住民族で、島田さんはマオリと交流があり、アイヌ感謝祭には日本在住のマオリの人たちのグループが毎回、友情出演しています。

アイヌ感謝祭は、ムックリの演奏でスタートです。演奏は首都圏で活動する宇佐恵美さん。ムックリというのは、紐のついた竹の板を口に当て、紐を引っ張って震わせて口の中で共鳴させる楽器で、口琴と呼ばれる楽器のひとつです。口の中の大きさを変えたり息を吸ったり吹いたりすることで様々な音色が出るそうです。

アイヌとかかわるゲストのトーク

アイヌ感謝祭の前半は、首都圏アイヌの活動にかかわる人たちのトークです。このうち3人を紹介すると…

・美術作家の奈良美智さんは、旅行先の台湾で先住民族と交流したエピソードを語りました。

・元々は首都圏で活動し、現在は北海道在住の沖津翼さんは「アイヌの権利回復」をテーマに、北海道のアイヌコミュニティーをまとめていく必要性を訴えました。

・北海道で狩猟をしている門別徳司さんは、アイヌの狩猟文化を継承するための活動や、山に入る時や狩りの時などに行う儀式について話しました。

アイヌの歌と踊りを披露

アイヌ感謝祭の後半は首都圏で活動するアイヌを中心に「ウポポ(歌)と、リムセ(踊り)」が次々と披露されました。アイヌの古い歌などを伝える弓野恵子さんは、「アイヌ語であいさつをするのは久しぶり」と言いながら、子どもの頃に聞いた歌を1つ、披露しました。「お芋に塩をつけて食べるとおいしいよ」という歌だそうです。

日本在住のマオリの人たちのグループ「ナー・ハウ・エ・ファー」も登場し、伝統的な歌や踊りを披露。特に「ハカ」は、かけ声のパワーがすごくて、熱気を感じるステージでした。

その後は、アイヌの女性の歌や、弓や刀を使った男性の踊りが次々と登場。「ペウレウタリの会」のステージでは、小中学生あるいはもっと小さな子どもたちも登場して、両親や祖父母の世代と一緒に歌や踊りを披露しました。

そして最後は、みんなで輪になって踊る「ポロ・リムセ」です。祭りのシメに定番のこの踊りは、お客さんも一緒にステージにあがって踊ります。最後テンポが速くなって、輪の中心にみんなが集まるとおしまい。4時間近くにわたった今回の「アイヌ感謝祭」はお開きとなりました。

来場していた東京の大学の学生は、一年かけて北海道のことを学んでいるということで、「大学の講義を取るまで、アイヌが首都圏にいるということを全く知らなかった。感謝祭に参加して、いろんな視点でアイヌについて考えることができて、とても貴重な経験ができた」と話していました。

若い世代が受け継ぐ動き

この祭りを11回続けてきた主催の島田さんは最初に、この先引き継ぐという下の世代の宇佐恵美さんと館下直子さんを紹介して、この2人が祭りの進行の中心となりました。館下さんは『最近は漫画の「ゴールデンカムイ」効果で、アイヌ文化に興味を持ってくれる若い人が増えてよかったです。また(今回ステージに登場した)ペウレウタリの会の「ペウレ」は「若い」という意味なのですが、最近、本当に若い子が増えてきました』とうれしそうでした。

宇佐恵美さん(左)と館下直子さん(右)

若い世代へアイヌの文化を継承する姿が各所で見られ、メディアの仕事をする私たちも含め、日本の先住民族アイヌについて学ぶことはまだまだあると感じた感謝祭でした。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・進藤誠人)