「道交法のスピード違反の法定刑は、『罰金』だけでなく『懲役6月以下』がある。『罰金』しかない金丸の『政治資金規正法違反事件』と同列には論じられない。超過スピードがどれくらいか、交通量の少ない深夜や田舎道か、人通りの多い繁華街か、急病人を搬送していたとか酌量すべき事情があったのか、過去の違反回数など、様々なことを勘案すべき。もし懲役を選択する余地がある場合には、本人の取り調べが不可欠である」と。
一方で、明らかに罰金が相当な場合でも、「容疑を認める上申書」と「略式処理に異議がない旨の同意書」の提出が不可欠です。なおかつ、これが本人の意思で、本人が書いたという担保が必要となります。金丸の罰金処分では、弁護人がこれを保証していることを説明しました。
ーーーその説明に対しては、どんな反応でしたか。
五十嵐元特捜部長:弁護人の選任が必要というのであれば、それは「経済的に割に合わない」として、スピード違反の容疑者本人が出頭してきたという報告を受けました。
当時、多くの国民は、無条件で、「上申書」を提出すれば「取り調べ抜き」で処分を受けられると誤解したのではないでしょうか。
記者諸君には十分説明し、理解してくれたと思うのですが、この点について、当時のマスコミ報道は「取り調べ抜き」で「上申書提出のみ」の略式処分は不当・不平等だ、という論調で一色でした。
筆者も含めマスメディアの報道は、激しい「検察批判」の風潮のなかで過熱していた。「政治資金規正法」の問題について、法律専門家の論争は活発に交わされていたが、自戒を込めて、当時もっと取材して法律の課題を世に問うことはいくらでもできたはずだった。


神社にお参り
ーーー年が明けて1993年3月、「第二ラウンド」でいよいよ金丸逮捕が秒読みとなった時期、神社参りをされたというのは本当ですか。
五十嵐元特捜部長 : 金丸着手の2,3週間前、妻と一緒に埼玉県の「高麗神社」にお参りに行きました。このときはなんとか事件がうまく行きますようにという気持ちで訪れました。
宮司さんに案内され、真正面に妻と一緒にすわり、両脇とうしろには参拝者が20人ほどいらっしゃいました。
宮司さんが「きょうは東京地検特捜部長の五十嵐紀男さんご夫妻が来て下さってます」と余計なことをおっしゃったが、まあ、ありがたいことだと思って、夫婦でお祓いを受け、記帳しました。
ーーーそれから金丸逮捕の直後、偶然にもその宮司さんをテレビで見たと。
五十嵐元特捜部長 : 金丸逮捕の直後、宮司さんがテレビで「今年いらっしゃったときの五十嵐特捜部長の顔付きは大変厳しかったので、何か胸に秘めるところがあると感じたが、それが、この金丸脱税事件だったのですね」と話しているのを見ました。
家内に「他人にそう見られるようでは特捜部長失格だね」と言ったら、家内は「毎晩夜回りに来ていた記者さんは、だれも気づかなかった。宮司さんの話は後講釈よ。私はあなたが家内安全を祈っていたとばかり思っていました」と言いました。少しほっとしました。
「高麗神社」は「出世開運」の神様として歴代の特捜部員がお参りに行く、なじみの神社で、五十嵐も特捜部の平検事のころから参詣していたという。
数々の大型脱税事件を手掛けてきた五十嵐の大事件着手を目前に控えた神社参り。
「誠実」「温厚篤実」な人柄とどこか重なる風景だと思った。
東京拘置所の医師が待機
ーーー78歳という高齢の金丸元副総裁を逮捕して、東京拘置所に身柄を勾留することに、懸念はありませんでしたか。

















