富山では用水路に転落して亡くなるケースが相次ぐ

2023年5月、富山県高岡市では、78歳の女性を娘や近所の人が探していた。

女性は認知症で、自宅にいるのに「自分のうちに帰る」といって外に出たあと行方が分からなくなった。1日半探し続けたが見つからない。

女性を捜す娘
「どんな形でもいいから見つけてあげたいと思います」

だが翌日、女性は遺体で見つかった。発見場所は、自宅から15キロ離れた河口だった。自宅近くの用水路に転落し、流されたとみられている。女性が行方不明になったのは、これが4回目だった。

女性を捜す娘
「こういう形でしか帰ってこられなかったことに関しては、すごくやっぱり悲しいし、『これ現実?』っていうのは当初ありました。でも見つかってくれてよかったなって。やっぱりお母さん帰りたかったんやわ、と思って」

富山県では用水路に転落して亡くなる高齢者が、後を絶たないのだ。

田んぼの多い富山県では、農業用水路が1万1210キロにわたって住宅街にも広がっている。2022年、用水路に転落して死亡した人は16人と全国の4分の1を占めた。

なぜ、これほど多くの高齢者が用水路で命を落としたのか。

南砺市の94歳・簔口弘子さんもその一人だ。

一人暮らしだった弘子さんが突然いなくなったのは、2023年9月のこと。朝6時半頃、隣に住む孫の肇さんが弘子さんの自宅に行くと…

玄関先にカバンが…

弘子さんの孫
「家の中探して『おばあちゃん』って言ったんだけど、いなくて…」

家の中を探しても姿はない。警察や近所の人が周囲を探していると…近くの用水路で、頭から血を流し亡くなっているのが見つかった。

用水路は幅35センチ、水深わずか8.5センチだった。用水路に倒れた弘子さんの体で水がせき止められ溺死したとみられる。

前日の訪問介護の記録には、こう書かれていた。

「町へ行ってくると言われる。」

10年前の弘子さん。ひ孫の誕生を喜び、成長を楽しみにしていた。農業をしていて、畑仕事が好きだった。しかし5年ほど前、認知症になり畑も荒れていった。

孫の肇さんは、他界した両親にかわり、そんな弘子さんを介護してきた。

弘子さんの孫 肇さん
「ここ、ばあちゃんが普段おった部屋です。普段この辺でゴロンと寝とったんかな。亡くなるちょっと前から失禁が多かったので汚くなってます」

いつも持ち歩いていたカバンには…

弘子さんの孫 肇さん
「何月何日に主に何したとか。おばあちゃんが忘れないように書いていたやつですね」

妹の亡くなった日が書かれたメモ。記憶が薄れていく中、書き留めたのだろうか。1年半前からは、ホームヘルパーを利用するようになったが、急速に症状は進んでいった。

弘子さんの孫 肇さん
「紙パンツの交換から、お茶の水分補給から、体拭いてもらったり。ご飯炊くのも多分手伝ってくれとったんかな。『炊く方法を忘れちゃった』と言うからね」

足も弱り、家の中でも移動が困難に…

弘子さんの孫 肇さん
「ばあちゃん、寝室まで行けなくなったので、この辺に『寝室作ってください』って言われて、布団を準備してあげたり」

そんな足の状態で弘子さんは家を出て行き、用水路に落ちてしまったのだ。