新たな診断は「尿路上皮がん」。ステージ4でした。このとき、斎藤さんの頭に浮かんだのは「舞台に穴は空けられない」…。私たちの取材カメラが密着したこの時も、舞台の合間を縫って治療を受け、退院したばかりでした。

舞台の準備をする斎藤歩さん

俳優・斎藤歩さん58歳「本当は2週間入院しなきゃいけない。だけど主治医と相談して、4日の入院で手を打ったの」

出した結論は、舞台との両立を図りながら、治療を続けることでした。

しかし、舞台前の準備中、抗がん剤治療の副作用で、手がしびれ、上手くいきません。足先の感覚も鈍く、歩くにも一苦労です。

斎藤歩さん58歳「12月入院したら、もっと酷くなるんじゃないかな、どうなっちゃうんだろう」

2023年11月15日、稽古を終えて帰宅するとリビングは、まるで寿司店のカウンターです。

不定期で自宅で開かれる寿司パーティ

俳優・斎藤歩さん58歳「頭おかしいでしょ、こういう人がね、うち帰るといるのよ」
 
俳優・山野久治さん「あら帰って来たの」


不定期に、斉藤さんの自宅マンションで開かれる寿司パーティー。30年来の俳優仲間が、銀座の有名店「Q」の白木のネタ箱を持ち込み、趣味で寿司を握るのです。仕事や病気のことを気にせず、こうして仲間たちと過ごすひと時も、貴重な時間です。

舞台開幕の前日。直前まで細かな調整を続けます。

斎藤歩さん58歳「皆さん“緊張してる”とかそういうことを期待してるけど、俺ねえ、緊張ができないの。うまくいくかなって心配はしてるけれど」

思うように動かせない身体…周囲の不安をかき消すように、力強い声が、劇場に響きます。

2023年12月1日に迎えた舞台初日。開演が迫り、満杯の客席。一方、斎藤さんはというと…。

俳優・斎藤歩さん58歳「あと10分もあるね。もうちょっとしたら降りよう」

舞台裏で待機する斎藤歩さん

自分のペースは崩さないようです。物語の舞台は樺太と礼文島。人形劇と演劇で描く、不条理劇です。

観客「斎藤さんと(人形劇師の)沢さんのかけあいがおもしろくて」「思ってもみなかった(舞台セットの)使い方をされているのがすごくおもしろかった」

俳優・斎藤歩さん58歳「きょうは、優しいお客さんだったっていうのもある。だけど、この方向で行っていいんだっていうことと、もう少し精度を上げられるなって感じが」


今回も、舞台が終わったタイミングで再び入院です。彼が、自分の命よりも、演劇にこだわる理由とは―。

俳優・斎藤歩さん58歳「治療を優先したところで、生きてる保証もないわけですし、僕がやろうとしてることって、代わりのいないことじゃないかなって。やるしかないんですよね」

今後は一旦治療に集中し、すでに決まっている脚本・演出業に専念するということです。