“見えにくい言論統制”に危機感 ヤジと表現の自由

しかし、その後に起きた2つの事件によって、選挙の演説会場における表現の自由と要人警護を巡り、再び大きな議論となります。

2023年10月に行われた参院徳島・高知の補欠選挙。岸田総理が徳島市で応援演説をしていたときのことでした。

「増税メガネ」

岸田総理からおよそ50メートル離れた場所にいた聴衆の男性がヤジを飛ばしました。すぐに警察官3人が男性のもとに駆け寄り、静かにするようなジェスチャーをします。男性はそのまま演説会場を後にしました。

映像を見た刑事訴訟法や警察官職務執行法の専門家、九州大学の豊崎教授は…

九州大学(刑訴法・警職法) 豊崎七絵教授
「地声でヤジを飛ばしただけで犯罪や危害を生じる危険を予測させるような、何かそういう客観的な行為をしたわけでもないですから、表現の自由という重要な権利利益を侵害したという意味ではむしろ強制的な措置であり、警職法上の根拠もない違法な行為で、憲法21条(表現の自由)に抵触する」

徳島県警はJNNの取材に対して、「岸田総理を批判する声がしたので、もしかするとその先に何か危険物を投げることがないかなどを確認するために近づいた。警察官が近づこうと歩み寄ったら、本人からもう帰るという趣旨の発言があった。制止をするようなことは行っていない」と回答しました。

憲法の専門家・早稲田大学の阪口教授は、徳島県警の回答を疑問視します。

早稲田大学(憲法学) 阪口正二郎教授
「手荷物検査もちゃんとやってるわけだから、その上でヤジを言ったからというだけで、そんな危ない行為をするなんていうのはかなり短絡的で飛躍した発想。ヤジを言うことはちゃんとした権利だと警察はあまり考えていないのでは。異質な言論を排除する社会に、どんどん過剰な警備になっていくような気がする」

市民が政治家に直接訴えかける数少ない手段とも言えるヤジ。4年前の札幌で起きた問題は世の中に大きな波紋を広げ、ヤジと民主主義をテーマにした映画になりました。

ナレーションを務めたのは作家の落合恵子さんです。

作家・落合恵子さん
「言論統制のようなものだと思うが、より複雑でより見えにくい形での統制というのは、さらに進んでくるのかなと思うととても怖い。ただそこでジャーナリズムがどこまで踏ん張るか、あるいは踏ん張ったジャーナリズムを受け手である私達がどこまできっちりと丸ごと受け取れることができるかと問われている」