3区は廣中が2位以下をどこまで引き離せるか

3区(10.6km)は廣中が区間賞候補。他チームのエースたちが相手でも、おそらくこの区間で日本郵政がトップに立つ。そのくらい廣中の力は突出している。高橋監督は「資生堂さん、積水化学さんと同じくらいで3区にタスキを渡したい。早い段階で廣中がトップに立ったら、2位を1分近く離すことができる。5区で新谷さんに追い上げられても逃げ切れる」という展開を期待する。

昨年の廣中は、新谷に1秒差で区間賞を逃した。一昨年は区間賞を取ったが、新谷の区間記録を1分以上下回った。

「今年は良いと思います。(先週)土曜日の練習で、10000m31分20秒ペースで8000mまで走っています」(高橋監督)

廣中以外はマラソンの有力選手が集まった。8月の世界陸上に出場した加世田梨花(24、ダイハツ)と佐藤早也伽(29、積水化学)。MGC優勝の鈴木と2位の一山麻緒(26、資生堂)は、パリ五輪マラソン代表を決めた。加世田はMGCにも出場して4位。吉川侑美(33、ユニクロ)もMGCに出場している。

世界陸上10000m7位の廣中のスピードが優るが、名前を挙げたマラソン選手たちもトラックや駅伝でも活躍してきた。日本郵政より先にタスキを受ければ前回の一山のように、廣中に追いつかれてから粘る展開に持ち込めるかもしれない。

廣中が2位以下に1分近い差を付けるのか、マラソン選手たちが踏ん張って30秒以内の差で4区にタスキを渡すのか。そこの攻防が3区の焦点だ。

4区以降は資生堂と積水化学、日本郵政の首位攻防が展開か

資生堂は4区(3.6km)で、前回区間賞のジュディ・ジェプングティチ(20)でトップに立つ展開に持ち込みたい。前回ジェプングティチは日本郵政の選手に48秒差をつけた。

日本郵政の今年の4区は小坂井智絵(20)で、5000mの自己記録は昨年走った大西ひかり(22)とほぼ同じ。自己記録よりも現在の調子がレース展開を左右しそうだ。小坂井が好調なら、ジェプングティチに追いつかれてからも粘ることができるかもしれない。

4区で要注意なのは積水化学の佐々木梨七(21)だろう。一昨年は6区区間2位で優勝テープを切り、昨年も6区で区間賞。今年は駅伝が近づくにつれ、どんどん調子を上げていると野口監督が太鼓判を押している。

積水化学は3区の佐藤も同様に、世界陸上のダメージから回復し、2年前に区間2位でトップに立ったレベルに近づいている。3区で佐藤が一山からリードを奪っていれば、4区で日本郵政、積水化学、資生堂の3チームが接戦になる可能性がある。

5区は興譲館高の先輩後輩対決が優勝の行方を左右

5区(10.0km)は積水化学が新谷仁美(35)、資生堂が高島由香(35)と興譲館高(岡山)の先輩後輩が対決する。高島は13年には5区で区間2位となり、前所属のデンソー初優勝に貢献。14~16年に3年連続3区の区間賞を取り、16年にはリオ五輪10000mに出場した。

1学年先輩の新谷は12年ロンドン五輪、13年世界陸上モスクワの10000m代表で、モスクワでは5位に入賞した。モスクワを最後に一度引退し、高島が前述の活躍をした間は陸上競技から離れていた。しかし18年に復帰した新谷は、19年世界陸上ドーハで10000m代表入り。20年にはクイーンズ駅伝3区で区間新記録をマークし、翌月には10000mで30分20秒44の日本新、そのシーズンの世界2位記録をマークした。21年の東京五輪10000mに出場し、22年以降はマラソンに進出。同年の世界陸上オレゴン代表入りし(新型コロナ感染で欠場)、
今年1月のヒューストン・マラソンで2時間19分24秒の日本歴代2位で走っている。

高島は16年にデンソーを退社し、数か月ブランクを経て資生堂に入社した。17、18年は3区区間3位で走ったが、19年以降は故障が続いて駅伝でも好走できなくなった。故障を克服して昨年夏から練習が継続できるようになり、今年は5000mで自己新。4年ぶりに主要区間に復帰する。デンソー時代から高島を支えてきた青野監督は「五島の代わりを高島ができるようになった」と、起用理由を明かした。

5区の区間記録は五島が21年大会で出した31分28秒。同じレースで新谷は1秒差で区間2位だった。新谷は15日の会見で、「実業団に入ったときから、言い方は悪いのですが選手全員が敵(ライバル)という形で考えて来たので、先輩後輩という意識の仕方はしていません。(国内の)誰かを基準に動くようなことはしたくないですね」と話した。世界で戦うことを考えていたら、高校時代の関係を考えても意味がない。新谷らしい考え方を披露した。

だが5区での興譲館高出身2人の対決が、積水化学と資生堂の勝敗を決する可能性は大いにある。そこは駅伝ファンにとっては興味深い戦いになる。
そこに日本郵政の鈴木亜由子(32)が加わると、興譲館高出身者対決から、五輪トラック代表経験のある3選手の争いになる。

6区逆転なら15年ぶり。宮城開催になってからは初

アンカーの6区(6.795km)は、積水化学の森智香子(31)が好調だ。資生堂は前田海音(23)、日本郵政は和田有菜(24)で、資生堂の青野監督は「ライバルチームより力が落ちる。5区までに1分のリードが欲しい」と話す。森は15分21秒42、前田は16分12秒31で、5000mの自己記録の差は約50秒ある。

和田の5000m自己記録は15分25秒41で、森と大きく変わらない。日本郵政の高橋監督は「和田は駅伝になるとスイッチが入る」と期待する。森と差がなくタスキを受けたら「勝負できる」と話す。選手では森が、これはレース8日前のコメントだが、「20秒差なら逆転する」と話している。

クイーンズ駅伝の6区での逆転劇は、豊田自動織機が優勝した08年が最後。宮城県開催になってからは初めての、アンカー逆転のドラマが起きるのだろうか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は左から廣中選手、新谷選手