◆国防当局同士の対話復活へ



今回の首脳会談の最大の成果はなんだろうか? 具体的なテーマで挙げると、やはり米中両国の国防当局同士の対話復活。これは合意されるだろう。安全保障の分野で競争が激しさを増す中、偶発的な衝突の回避に向け、対話拡大も模索した。

今年2月のこと。アメリカ本土に飛来した、中国の偵察用とみられる気球を、アメリカ軍の戦闘機が撃墜し、関係が一気に冷え込んだ。ブリンケン国務長官の中国訪問が急きょ、延期された。さらにさかのぼると、昨年8月、アメリカの下院議長だったペロシ氏が台湾を訪問したことで、中国側は軍同士の対話のチャンネルを閉ざした。

一方で、アジア太平洋地域では、中国を視野に、アメリカを中心にした多国間の軍事・防衛の枠組みが次々と築かれ、中国は警戒感を強める。当然、日本も無関係ではない。

そこに台湾問題が関係してくる。アメリカは、台湾総統選挙の前においても、不測の軍事的衝突が起きないようにしたいと考えている。バイデン氏は会談で、台湾の独立を支持しない現状維持の立場を伝え、総統選で中国が選挙介入しないよう警告しただろう。

中国側は「アメリカはすでに台湾問題に関与し、その度合いを強めている」との認識だ。台湾問題にアメリカが立ち入ることを強く拒む。中国にとって台湾問題は「国内問題」。受け入れる余地は少ない。習氏は台湾問題などで譲らず、米国とは対等だと印象づけたい考えだ。ただ、双方とも織り込み済み。「対話はするが、互いの主張は平行線」をたどるようだ。



◆首脳会談で経済浮揚と習主席の権威を高めたいとの中国の思惑



経済と安全保障がリンクする時代だ。アメリカは、軍事転用可能な半導体など先端技術分野の対中輸出・投資の規制を相次いで打ち出している。このため、中国経済が振るわない。経済の浮揚に向けて、アメリカからさらなる投資を呼び込みたい。アメリカとの関係を改善基調に乗せることが重要となっている。

さらに、人工知能(AI)をめぐる規制や気候変動対策も大きな問題だ。アメリカからすれば「中国との競争は避けられない。多岐にわたる競争をどう管理・統制するか。衝突回避のため、意思疎通を図らないと」というところだろう。首脳会談で、画期的な成果が生まれるという時代ではない。

もうひとつ、中国国内に向けて今回の首脳会談には意味がある。習主席は6年半ぶりの訪米によって、国内での権威をさらに高めたい思惑がある。「あのアメリカとの関係をコントロールし、動かしているのは自分だ」とアピールする場だ。

中国の国営メディアは、習主席のアメリカ訪問に前後して、習主席とアメリカの長きにわたる友好の歴史を強調するシリーズ報道を続けている。紹介されている多くのアメリカの友人の中に、意外な家族がいた。

アジア太平洋戦争中のアメリカの軍人、スティルウェルをご存知だろうか。中国が日本と戦争を続けていた1930~40年代、アメリカから派遣されて中国に長く駐留し、中国の軍隊を指導・指揮した人物で、中国にとっては功労者だ。

習主席は今年8月、そのスティルウェルの遺族らに手紙を送って、その功績に感謝を示している。ただ、スティルウェルが指導・指揮したのは、蒋介石率いる国民党の正規軍だ。共産党の軍隊は当時、ゲリラ戦が中心だった。共産党の軍は本流ではなかった。

習主席が6年半ぶりのアメリカ訪問にあたって、このスティルウェルの話まで持ち出したのは、やはり、アメリカとの関係を安定させたいとの思いからだろう。


◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。