親しくない人に「あなた」を使うと…?

それ以外にも、日本語では普通「あなたはボールペン持ってる? あなたが持っていたら、あなたは私に貸して」のようには言わず、「あなた」や「わたし」を使わずに、「ボールペン持ってる?持ってたら貸して」のように言う、「ゼロ代名詞言語」と呼ばれる特徴があります。

「あなた」を入れずに使うことも

ですから、さほど親しくない人に「あなた」を使うと、比較的近い関係を相手に強要することになり、失礼だと思われてしまうおそれもあって使いにくいのです。
つまり、現代日本語は、見知らぬ人を指して丁寧に言う適当な二人称代名詞がない状態なのです。

1952年に出された「これからの敬語」(国語審議会・建議)では 、 対称詞 (二人称代名詞) については 「あなた」を標準の形にするとしていたのですが、 当時よりも丁寧さがすり減ってしまった今、「あなた」は使いにくくなってしまいました。

「貴様」から「おまえ」、さらに「おまえ」から「あなた」と、丁寧な二人称代名詞が生まれてきたように、近い将来「あなた」に代わる丁寧な二人称代名詞が新たに生まれることになるのかどうか、注目していきたいと思います。

加藤和夫:福井県生まれの言語学者。金沢大学名誉教授。北陸の方言について長年研究。MROラジオで、方言や日本語に関する様々な話題を発信している。