ゲイの当事者として性の多様性を考えるパレードの運営などに関わる満島てる子さんは「今回の判決内容は、当事者のコミュニティにとってもいろいろな意味をもたらす」と話します。

 満島てる子さん
「今回の裁判では、2種類の手術要件について問われましたが、中でも『生殖腺やその機能を永続的に失う』ために手術が必要だ、というこれまで特例法が定めていた条件は、私は不妊要件といってもおかしくない内容だと思っていました。そこに違憲の判断が下ったことは、すごく大きいと思います。今回の判決文の中に、『リプロダクティブ・ライツ』という言葉がありますが、この言葉は性や子どもを産むことについて、本人の意思が尊重されるべき(権利)として、日本でも知られるようになりました。日本のトランスジェンダーの当事者は、(性別変更には)生殖腺をとるよう定められてきたことで、ずっと(この権利を)奪われてきた。自分の子どもをつくるという、本来誰にも等しく認められているはずのことが、なぜか一部の国民に不当に認められていなかったことが浮き彫りになったのが、今回の判決だと思います」

「判決文の中には、トランスジェンダーの当事者が、子どもを持つことがレアケースかのように扱っている部分もあったと思っています。きみちゃんのような子どもをつくるトランスジェンダー当事者は、日本にもいるし、国際基準だと手術要件を設けること自体、あってはならないことだと言われている。子どもを持つ可能性をゼロにすることが、権利侵害なんだということが、一人でも多くの人にわかってほしいと思います」

 今回の最高裁決定により、望む全員がすぐに性別変更できるわけではありません。
 今回の決定では、特例法にある手術要件の1つ「外観要件=性器の形が望む性別の形に似ていること」については判断せず、高等裁判所に差し戻しされました。
 決定は高裁でやり直しとなり、申立人は外観を変えていないため、今回性別変更は認められませんでした。

大川哲也弁護士は、この最高裁の決定について、「外観要件についても手術が必要な場合が多いため、同じ理屈で違憲と判断される可能性が高いのでは」と話します。

 大川哲也弁護士
「裁判の効力は、その事件限りです。他の当事者の方には適用されないので、違憲判決が出たからと言って、自動的に直ちに救済されるわけではなく、救済のためには法律を変えなくてはなりません。最高裁で違憲判決が出た場合、立法府は(判決を)尊重して法律を変えることになりますが、2019年の決定からは、かなり時間が経っているので、前向きな判断をしてほしいと思います」

 社会の枠組みはどうしても、男性・女性「だけ」で考えられてきましたが、これをきっかけに変わる兆しになるかもしれません。