民主化への道が切り開かれたはずのミャンマーで起きた軍事クーデターから2年半。厳しさを増す弾圧や経済の悪化で市民生活は窮地に陥っている。
現地に入って見えてきたのは“憎しみ”や“失望”が広がるミャンマー社会の現実。抑圧された日々の中で人々は何を思うのか。
市民もスパイに?強まる軍の“弾圧”と“監視”

最大都市・ヤンゴンの空港に降り立ったのは2023年7月。市街地を走っていてまず目に入ったのは、“普通の市民生活”だった。
2年前のクーデター直後のような混乱はもう起きていないとは思っていたが、想像以上に落ち着きを取り戻したように見えるヤンゴンの街が何だか不気味に感じた。
地元民で賑わうマーケットには、多くの観光客の姿もあり、街は日常を取り戻したのかと錯覚してしまうほどだった。
ただ、ある市民はこうつぶやく。「現実はまったく違うよ」

抗議運動を抑え込もうと、軍や警察による検問所がいたるところに設けられていた。
夜間は午前0時から午前4時まで外出禁止令が出されていて、出歩く人はほとんどいない。
静寂に包まれた暗闇のなかで、黄金に輝くパゴダ(仏塔)が街を照らしていた。
市民生活を厳しく管理し、監視の目を強める軍。一般市民をスパイとして利用し、密告させるようにしていると言われているほどの状況だ。

私たちのようなメディアも例外ではない。ミャンマー軍は、統制下にある国営のメディア以外は“敵”とみなしており、撮影行為が見つかるとすぐに拘束されてしまうリスクが高いという。
周囲の目を気にしながら慎重に、かつすばやくリポートした。
「ヤンゴンのマーケットに来ています。非常に活気がある様子がわかると思います。今このカメラでは映せませんが、周りには警察や軍の関係者の姿もありまして、撮影行為、取材行為を厳しく取り締まっているということなんです」
私たちのすぐそばでは、観光ツアーに訪れた外国人たちにガイドが注意喚起をしていた。「皆さん、写真ならまだ大丈夫ですが、動画は撮らないで。見つかると危ないです」