米長期金利もついに5%突破
インフレ抑制が思うように進まなければ、金融引き締めは強化、長期化することにつながります。それを見越して長期金利はすでに世界中で上昇しています。アメリカでは19日、10年債の利回りが一時5.00%台まで上昇し、16年ぶりの高い水準に達しました。
アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長は19日、インフレ圧力が強まれば「一層の引き締めが正当化される」、「引き締め過ぎの状態だとは思わない」などと発言し、金融引き締めの長期化を示唆しました。
実は、今回の中東での「戦争」勃発当初、アメリカの長期金利はやや下げる展開でした。というのも、有事では安全性の高い米国債にお金が流れ込むのが自然だからです。しかし、ここにきて中東情勢の緊迫化が金融市場全体のリスクオフを招く状況に変わって来ており、株も債券も売られる展開です。アメリカの場合は、こうした地合いに加え、財政支出拡大に伴う国債増発懸念など固有の事情も加わっています。
世界経済はスタグフレーションの淵に
インフレが収まらず、世界的な金融引き締めが続けば、その先に待っているのは、スタグフレーションです。スタグフレーションとは、景気後退とインフレが同時に進行することで、1970年代後半に世界経済を苦しめた現象です。その後、グローバル化の進展で、世界的にディスインフレ(インフレなき)時代に入ったことから、死語になったと思われていた言葉です。その言葉が、今、蘇りつつあります。
IMF(国際通貨基金)は今月発表した世界経済見通しで、来年の世界全体の成長率を2.9%に下方修正しました。この数字は新興国や途上国も含めた平均なので、とても低い数字です。2000年以降、世界経済の成長率が3%を切ったのは5回しかなく、いずれもリーマンショックやコロナ禍など大きな危機の時だけです。2.9%成長の来年は、「世界経済は不況」と言っているのと同じです。
アメリカ経済が予想以上に強く、「ソフトランディング(軟着陸)」への期待が依然強いことや、日本では、例外的に金融緩和が続き、財政の大盤振る舞いが続いていることなどから、私たちは、少し楽観的になり過ぎているのかもしれません。中東情勢の緊迫化は、微妙な均衡状態にあった世界経済の大きな足かせになるかもしれません。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)