2年連続で6%を超える賃上げを実施した総合素材メーカーのAGC。2024年以降も賃上げを継続するとしている。平井良典社長に持続的な賃上げの狙いと成長戦略について聞く。

賃上げは会社の成長・進化、「人財戦略」の一環

総合素材メーカーのAGCは1907年、旭硝子として創業。世界の自動車の4台に1台がAGCのガラスを採用するなど、ガラスメーカーで世界シェア1位を誇り、2010年頃には利益の8割をテレビモニターのガラスで占めていた。

ところがその後、液晶テレビの価格破壊により利益は激減。ガラス一辺倒の経営から脱却するため、これまでの核となるガラス事業をさらに掘り下げる一方、新たな戦略事業を模索する、いわゆる両利きの経営で業績をV字回復させた。

AGCは半導体関連やワクチン開発など、成長が見込める分野に積極的に取り組み、老舗のガラスメーカーから総合素材メーカーに成長した。持続的な賃上げによる人への投資とコア事業の深掘り、戦略事業の発掘を通して、どのような成長軌道を描くのだろうか。

――旭硝子からAGCに社名を変えて5年。新しい社名はもう浸透したか。

AGC 平井良典社長:
かなり認知度が上がってきて、ちょっとほっとしております。

――2030年まで持続的な賃上げを表明したということでも話題になっている。その心は?

AGC 平井良典社長:
そこまでは言い切っていないのですが、持続的な賃上げは非常に重要だと心から思っています。

――2030年の位置づけは?

AGC 平井良典社長:
長期ビジョンとして「2030年のありたい姿」というのを掲げており、世の中のサステナビリティに貢献するというのもあるのですが、そのためには自社が継続的に成長・進化するということをうたっています。継続的な成長・進化という中には、持続的な賃上げも一つの要素だろうと考えています。会社が成長をし続けるということは、人への投資をし続けるということになると思います。

――初任給は2020年からだと2桁の賃上げだ。賃上げに積極的な理由は何か。

AGC 平井良典社長:
2030年に向けて継続的に会社が成長・進化するためには、やはり人です。人が新しいことを考えてイノベーションを起こし、生産性を上げていく。人材に対する戦略の中で、生き生きと頑張ってもらうためにも、賃上げが一つの要素として必要だろうと考えているわけです。

――AGCの「人財戦略」は伝統なのか。

AGC 平井良典社長:
はい。人は財産であって材料ではないということです。

――日本経済は過去30年、全然賃上げしない、ベアゼロという時代が長くあった。

AGC 平井良典社長:
失われた30年は私としても非常に強い課題認識を持っています。なぜ日本がここまで低迷したのかを考える中で、バブルの崩壊後に新しい成長を見出すのではなくて、それまでやってきたことを守って、そこでコストダウンをして何とか乗り切ろうとしたと。コストダウンすると、賃金が上がりません。賃金を投資だと考えずにコストだと考えると、当然コストダウンの中には賃金の抑制が入ってしまうので、それが長い時間で続いてしまったのかなと思います。最近は我々の世代の経営者はちゃんと投資をしていかないといけない、次のイノベーションを起こそうと活動し始めています。

――かつてのコストダウン的な発想は、あまり良くなかったということか。

AGC 平井良典社長:
コストダウンは重要なのですが、コストダウンだけに頼ったら、どこかで行き詰まりがあると。物の価値を上げるということと、生産性を上げるということをやって、その中でコストダウンに取り組まないと、コストダウンだけを言われたら苦しいです。

――賃上げをやるためには原資がいる。それをどう実現していくかが一番大事だ。長年取り組んできたからこそできるのか。

AGC 平井良典社長:
私どもも液晶のガラスで利益を出したところから、結構苦しい時代が続いたのですが、そこをどう乗り切ろうかと考えたときに、既存の需要をコア事業と位置付けて、そこをしっかりと深掘りをして強くしていくと。一方で新しい分野に新事業を興していく。それを戦略事業と名づけて、この両方を強くしていくと持続的な成長が図れると考えて2016年に発表してからもうずいぶん経ちますが、ようやくその成果が今現れてきていると思っています。