◆巨額の相続税を支払うことになったジュリー氏
もう一つ、なぜ事務所の対応は後手に回ったのか、です。
今回、ジャニーズ事務所は、被害者補償のための会社(スマイルアップ)と、所属タレントらのマネジメントに特化した新会社に分かれて、創業家の藤島ジュリー景子氏はすべての代表取締役を降り、スマイルアップの100%株主として被害者への補償とケアに専念することになりました。
会見でも質問が出ましたが、なぜそれを前回の会見で言えなかったのか、最初から打ち出していれば、スポンサー企業も含めて、世間の反応は違ったはずだと、私も思います。
理由は、ジュリー氏自身が手紙で明かしました。巨額の相続税です。手紙にはこうありました。「ジャニーとメリーから相続したとき、ジャニーズ事務所を維持するために事業承継税制を活用しましたが、私は代表権を返上することでこれをやめて、速やかに収めるべき税金全てをお支払いし、会社を終わらせます」と。
事業継承制度というのは、相続税を支払うと会社がつぶれて社員も路頭に迷うようなことがないように設けられた税制上の特例で、一定の条件を満たせば贈与税や相続税を猶予・免除される制度です。
対象は株式を上場していない中小企業で、ジャニーズ事務所は年間売り上げおよそ800億円と言われる業界最大手ですが、資本金が1000万円なので中小企業の扱いになり、ジュリー氏はこの制度を利用して相続しました。
ただ、現時点では免除ではなく「猶予」で、最終的に免除されるには「相続から5年以上、会社の代表者であり続けること」などが定められています。ジュリー氏は2025年5月以前に事務所の代表を降りると相続税を支払うことになり、その額は数百億円とも言われますから、当初は何とかあと1年半、代表取締役に留まったまま、この問題を乗り切れないかと考えたのでしょうが、世間は厳しかった。
CM契約の打ち切りや紅白の出場見送りなどタレントへの実害が及ぶに至って、ついに決断したということでしょう。放置すれば所属タレントの流出は止まらず、事業存続も危ぶまれますから。
◆指名NGリストは事務所にとって痛恨の極み
最後に、今回の「指名NGリスト」について少しだけ。ジャニーズ事務所は「リスト作成には一切関与していない」としていますが、これにはちょっと違和感があります。というのも、誰が好ましく、誰が好ましくない取材者なのかという判断を、会見業務を請け負っただけのPR会社でできるとは到底思えないからです。
まぁ「好ましくない」ほうは「前回の会見の様子からピックアップした」という言い訳もできるでしょうが、存在が噂される「優先的に指名するリスト」が本当にあった場合、さすがにこれは説明困難でしょう。
また、もし本当にリストに同意していなくても、事務所自ら「では(NGリストの記者は)後半で当てるようにします」とPR会社が言ったことは認め、実際にリストに載った記者の多くは「時間切れ」を理由に指名されなかったわけですから、結果は同意したのと一緒です。
せっかく巨額の相続税を払う覚悟でジュリー氏が代表を退き、会社を分割して「ジャニーズ」の名前まで消して再出発しようとした会見なのに、これは事務所にとって、本当に痛恨の極みでしょう。
ただ、それを招いたのは、従来通りのメディアとの関係性でこの事態を乗り切れると考え、一方的にルールを課して会見に臨んだことだと思います。既にステージは変わっているのだと理解しなければ、再出発は厳しいものになると思います。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。














