◆日米との関係緊密化進める韓国も「首相に格上げ」
習近平主席は韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相とも個別会談した。韓国はこれまでアジア大会には大臣クラスの派遣が通例だったが、首相に格上げした。現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、安全保障を中心に、アメリカや日本との関係緊密化を進めている。とはいえ、北朝鮮に影響力を持ち、関係を経済・貿易の分野において中国との関係も重要だ。アジア大会への首相派遣で、その辺りのメッセージを送ったのだろう。
◆スポーツの祭典で領有権紛争が表面化
中国による「アジア大会外交」、競技以外に今大会から見えて来るものはといえば、中国とインドの間で続く領土紛争が、大会に影を落とした。インドの北東部出身のインド人女性選手3人が、選手登録や、中国入国を拒否された。選手3人は、アルナチャルプラデシュという地域の出身だが、中国は、このアルナチャルプラデシュ州を認めていない。中国外務省のスポークスマンも「中国の領土の一部だ」と説明している。
中国からすれば「そんな州は、インドには存在しない」と主張しており、仮に入国を許可したら、その場所の存在を認めることになる。インド側は当然ながら、中国政府に強く抗議した。アジア大会選手団に同行するはずだったスポーツ担当の大臣が急きょ、中国行きを取りやめた。
これには伏線がある。中国政府は8月末、最新版の自国の地図を公表して、関係国から非難の声が上がった。その地図で、インドとの間では、女性選手らの出身地・アルナチャルプラデシュ州を「中国領」として表記している。残念なことに、スポーツの祭典に、領有権紛争、国家のメンツが表に出てしまった。
◆北朝鮮・台湾も代表団を派遣
北朝鮮も、アジア大会に選手団を派遣した。北朝鮮は、新型コロナ対策を理由に、2020年以降、出国・入国を厳格に統制してきた。スポーツの国際大会での出国も例外ではなかった。今回は北朝鮮代表として、約190人がエントリーしている。やはり、「友好国の中国での開催だから」というのもあるだろう。
話は逸れるが、今から21年前、2002年に開かれた韓国釜山アジア大会を、現地で取材した経験がある。北朝鮮からは選手だけではなく、若い女性たちによる大応援団が釜山にやって来た。メディアは「美女軍団」と名付けて、日本でもずいぶんニュースになった。
北朝鮮の久々の国際スポーツ大会参加は、コロナ禍が一段落したことに加え、やはり、中国に、習近平政権に、協力姿勢を示したいという狙いもあるのだろう。ちなみに、釜山アジア大会当時の韓国の政権は、北朝鮮に融和的だった金大中(キム・デジュン)大統領。「美女軍団」の派遣の時も、今回も、外交的思惑があってのことだ。
台湾も参加している。中国メディアは台湾代表チームを「中国台北」と表記している。国際大会では台湾チームを指して、日本語で「中華台北」、英語で「チャイニーズ・タイペイ」という。
「中国台北」も「中華台北」も英語にしたら、同じ「チャイニーズ・タイペイ」だが、中国ではやはり「中国国内の一部」という意味で「中華」は使わず、「中国台北」。これは、現在は特別行政区の「中国香港」や「中国マカオ」と同じだ。表記からも、中国の姿勢がわかる。
次のアジア大会は2026年に名古屋市など愛知県で開かれる。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














