東南アジアの国・カンボジアに新しい首相が誕生し、就任後初めての外遊先として中国を訪問した。「北朝鮮・金正恩総書記のロシア訪問、プーチン大統領との会談も注目を集めたが、カンボジア首相の訪中も重要」と語るのは、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長だ。9月21日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でコメントした。
◆一族支配を続けるフン・セン前首相父子
カンボジアで長く首相の座にあったのが、フン・セン前首相。新首相の名はフン・マネットという。姓の「フン」から分かるとおり、フン・セン氏の長男だ。父親はカンボジアで40年間近く、トップの座にあり、その間カンボジア国内で独裁体制を築き上げた。そして2年前、当時は陸軍の司令官だった長男のフン・マネット氏を後継の首相に指名すると表明した。
今年7月に、カンボジアで総選挙が行われた。野党を解散させ、排除する中での選挙で、フン・セン氏が率いた与党が全議席の96%を獲得して圧勝した。直後にフン・セン氏は首相を辞任し、既定路線どおり、長男が新首相になった。長期政権だった父親からの権力移譲という、独裁国家にみられる典型的な世襲だ。
父親は72歳。今後も国を操っていくのだろう。事実、長男を新首相にしただけでなく三男、つまりマネット氏の弟も新政権に入閣している。
◆最初の訪問先に中国を選んだ意図は?
そのマネット新首相が今月14日、就任後初めて、国際会議出席ではなく、個別の外国訪問先として中国を選んだ。北京で習近平国家主席と会談し、関係強化を継続していくことで一致した。カンボジアの新首相が就任後すぐに、最初の個別訪問先として中国へ行ったのは、カンボジアの中国重視の姿勢の表れといえる。
この初の外遊、「やっぱり」というのが率直な感想だ。習近平主席は、フン・マネット氏が就任後初の個別訪問国として中国を選んだことを歓迎した。また、新華社通信によると、父親のフン・セン氏を会談で持ち出している。習近平氏は、父親が「両国の友好に歴史的な貢献をした」と評価している。
余談になるが、カンボジアに限らず、一国のトップが就任してから訪問する外国の順番は、大きな意味を持つ。
たとえば韓国の朴槿恵元大統領は就任後、アメリカ訪問に続き、その直後に訪れたのは中国だった。日韓関係が冷え込んでいたとはいえ、同じ自由主義陣営でともにアメリカと同盟関係にある日本ではなく、体制の異なる中国へ行ったのは大きな波紋を呼んだ。
話を戻す。フン・マネット首相は、習近平主席に対し、中国からの経済支援に謝意を示した。新華社通信によると、「カンボジアの経済・社会の発展に対する中国の長期にわたる大きな支持と支援に感謝します」と述べている。さらに中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」にさらに協力していくことを表明した。
◆中国に忠誠誓うカンボジア
「一帯一路」。習近平主席がこの構想を表明してから、今年でちょうど10年になる。150もの国が参加を表明しているが、経済が失速する中国自身、さらにイタリアは構想から離脱を検討するなど、参加を表明した国の間にも、この構想の懐疑的な見方が出始めている。
そういう中で、カンボジアは中国に、忠実な協力国だということを、トップである新首相が、中国トップの前で、明言した。つまり、忠誠を誓ったともいえる。
ここで、習近平氏がフン・マネット首相に対して言ったこの一言が気になっている。
“「国際情勢、それに地域情勢がどのように変化しても、中国は常にカンボジアにとって、最も信頼できる友人です。揺らぐことのない拠りどころです」”
「中国はカンボジアの拠りどころ」――。「中国が『上』、カンボジアが『下』」というニュアンスも感じる。たしかにフン・マネット首相の父親のフン・セン前首相の時代には、カンボジアは中国からの援助や投資によって、経済成長を続けてきたという経緯がある。
ASEAN(東南アジア諸国連合)10か国の中で、カンボジアは貧しく、外国の資本が欠かせない。2021年、カンボジアへの外国直接投資のうち、中国からの比率は6割強を占め、群を抜いている。
また、東西冷戦の影響もあって、カンボジアは約20年間、内戦が続いてきた。この内戦には中国も密接に関係していた。また、カンボジアの国王だったシハヌークは長く北京に亡命し、中国共産党に庇護されていた。
北京の中心部にはシハヌークの邸宅があった。内戦が終わったあとも、シハヌークは北京にいることが多く、死亡したのも北京だった。だから「中国はカンボジアの揺るぎのない拠りどころ」という表現は、過去も、今日も、その通りだと思う。














