◆処理水に対する中国の反応は頑ななまま
そのASEANプラス日中韓3か国の首脳会議だが、岸田総理は処理水の海洋放出について「国際基準にのっとり、安全性に万全を期した上で実施している」「科学的観点から何ら問題は生じていない」と出席した首脳たちに理解を求めた。そして、日本の水産物を全面輸入停止した中国の対応を「突出した行動だ」と批判した。
一方の李強首相は、処理水の放出によって海洋の生態系に懸念が生じたとしたうえで、「人々の健康に影響する」と反論した。頑ななままのように感じる。
同じ6日、北京では中国外務省の定例記者会見が開かれた。報道官はこんなふうに、日本を批判している。
日本が、国際社会の懸念に正面から向き合い、核汚染水の海洋放出の危険性を軽視したり、隠ぺいし続けたりするのではなく、誠実に、科学に基づくことで、真に国際社会の信頼を勝ち得る説明を行うことを望む。
日本は「処理水」という言葉を創り出した。「トリチウムの濃度に異常はない」と繰り返し宣伝し、核汚染水には「トリチウムしか含まれていない」「トリチウム濃度は基準値以下」「だから安全だ」と偽っている。このような行為で、国際社会を欺くことはできない。
ジャカルタでの国際会議の場で、岸田首相とは「立ち話」の形式で、会うには会ったが、中国としては当面、このトーンを貫くのではないだろうか。李強首相は、習近平氏に次いで序列は第二位だが、習近平氏が「一強」の地位にある今の中国にあって、ナンバー1はいても、ナンバー2、ナンバー3は存在しない。李強首相も外遊しての初の本格的な外交デビューだが、李強氏自身の言葉を発することは、ありえないのだろう。
日中友好議員連盟の会長で、中国と太いパイプを持つ自民党の二階元幹事長の中国訪問計画も、処理水の問題のため、現状では実現困難なようだ。「中国と話ができるのは二階先生しかいない」と、岸田首相が直接、二階氏に訪中を要請して、二階氏もそれに応える姿勢を示したのだが。中国側はなかなか軟化しない。
◆日中トップ会談の見通しは?
9月9日~10日、G20(主要20か国・地域)の首脳会議がインドで開かれる。中国はこれまでG20サミットに出席してきた習近平氏が欠席し、李強首相が出席する。中国の国家主席のG20サミット欠席は初めてだ。岸田総理と習近平氏の直接対話の機会はなくなってしまった。
その次の機会というと、11月に米国で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議だが、中国はここで米中首脳会談を開くことが、最も重要視する課題だ。年が明けると、1月の台湾総統選挙を迎える。中国の関心は、台湾、その後ろにいると警戒するアメリカ――という具合になるだろう。日中の関係改善への道筋は見えてこない。
当面は「低級飛行」が続くような日中関係。岸田総理と李強首相による「立ち話」という形式の、短時間の「接触」。いまはこれが精いっぱいということなのだろう。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














