福島第一原発から海洋放出されている処理水を巡って、日本と中国が対立している。9月6日、岸田総理は、中国の李強首相と「立ち話」をした。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、9月7日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で今後の見通しを語った。
◆ASEAN10か国と日中韓3国が集まる意義
インドネシアのジャカルタで、ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3(=日本、中国、韓国)の首脳会議が開かれた。その首脳会議が始まるのに先立ち、岸田・李強両首相が短時間、「立ち話」をした。岸田総理は、李強首相に対し、処理水に関して、日本の立場を明確に伝えた。また「建設的かつ安定的な日中関係構築の重要性」も訴えた、という。
この考察に入る前に、ASEANプラス3とは何かを説明しよう。1997年夏にアジア通貨・経済危機が起きた。アジアの通貨の価値が大幅に下落し、各国の経済が大きなダメージを受けた。これを契機に、この年のASEAN首脳会議に日中韓3か国の首脳が招待される形で始まった。
ASEAN加盟国10か国プラス3か国で、13か国の枠組みだ。この年は、ちょうどASEAN設立30周年という節目の年だった。このアジアにおいて、大きな影響力を持つ日中韓が、東南アジアの国々と、域内のさまざまなテーマについて、考えようという意義を持つ。
同時に、この場を活用して、日中、日韓などの2か国間で首脳会談を行なってきた。しかし今、日本と中国の関係は、処理水の海洋放出をめぐって、極めて難しい局面に陥っている。とても首脳会談を開く機運にはない。「立ち話」がニュースになるというのは、関係の困難さを如実に示している。
◆「立ち話」「接触」には二通りの意味
国際会議の場を活用して、対立する国の首脳同士の「立ち話」、または「接触」。これまでの例を振り返ると、二通りの意味があったと思う。一つは、お膳立てされた「立ち話」や「接触」によって、次のステップ、次の改善へのステップを踏んでいくケースがある。いきなり正式な会談を行うには、それぞれの国内での反発や、時にメンツもあるので、「まずは立ち話で」というものだ。
もう一つは、「とても正式会談なんて行えない。だけど、国際的な儀礼や、責任ある国家として品格を損なう。完全無視することはできない」「まあ、立ち話ぐらいなら」というケースだ。6日の「立ち話」は、中国からすると「仕方がない。立ち話なら」という判断なのだろう。
福島第一原発から出る処理水が問題化してから、日中の首脳が顔を合わせるのは、今回は初めて。ましてや、今年3月に就任した李強首相と、岸田総理が会うこと自体が初めて。本来なら、じっくり話して、互いを知ることから始めてほしいのだが。
とはいえ、「ばったり」「偶然」という「立ち話」や「接触」ではない。日本と中国双方の事務方が折衝を重ねて、「立ち話」という場を作った。それぞれが、どのタイミングで「接触」して、なにをどうしゃべるか、ということも打ち合わせ済みだったはずだ。
どちらも、相手の国の言葉を話す人=つまり日本外務省の中国語通訳、中国外務省の日本語通訳が、それぞれの首脳にぴったり付いて、言葉を伝えたわけだから。つまり、中国も日本に対して、対話の窓口を完全に閉ざしているわけではないのだ。
ただし、7日の中国共産党機関紙「人民日報」は、ジャカルタでの李強首相の活動を報道するなかで、岸田首相との「立ち話」「接触」については一切触れていない。「立ち話」「接触」を伝えた前夜の日本国内のテレビニュース、7日朝の日本の新聞各紙とは、まったく温度が違う。














