線路を渡る東南アジア系の男
8月22日の午後5時半ごろ、岩手県雫石町下平の会社員・袰岩雅信さん(67)は、仕事を終えて帰宅し、自宅近くの外にいたところ見慣れない人物や車を目にした。

JR田沢湖線の線路で踏切がない場所を東南アジア系の男が横断し、白い乗用車に乗り込んだ。車は田んぼのあぜ道を南に向かって走っていった。

複数の外国人が車を乗り捨て逃走
この日の午前11時ごろ、雫石町の国道46号で不審なナンバープレートを付けた車に警察が職務質問しようとしたところ車が逃走。車は雫石町内や滝沢市内に乗り捨てられ、乗っていた東南アジア系の男らは逃走。1人は滝沢市内ですぐに確保され、パスポート不携帯の入管難民法違反容疑で逮捕されたが、残りの複数人の行方が分からなくなった。どこかに潜伏している可能性もあるとみて、警察の連絡を受けた近隣の自治体が防災行政無線などを使って住民に注意喚起を行っていた。

「まさかとは思ったが、間違っていたら謝ればいいから」
袰岩さんが目撃した車には「水戸ナンバー」が取り付けられていた。普段は農家以外は通ることがないあぜ道。袰岩さんは東南アジア系の男が町内で逃走中という情報を昼間に職場で聞いていた。

「これはおかしいな」「逃げている犯人じゃないのか」袰岩さんは車のナンバーを忘れないように復唱しながら、すぐさま警察に通報した。東南アジア系の男、見慣れない白い乗用車、そして車のナンバー。

一緒にいた妻とともに「間違っていたら謝ればいい」と覚悟を決め、とっさの判断だった。

通報を頼りに警察が駆け付け確保
袰岩さんの通報受けた警察が現場付近に駆け付けた。通報から約1時間後、袰岩さんが目撃した場所から約5キロ東の国道上で逃走犯5人が確保された。すでに逮捕された1人を含む6人全員がカンボジア国籍だった。男らはパスポート不携帯の入管難民法違反容疑や、軽犯罪法違反で逮捕された。約1時間半におよぶ逃走劇が、袰岩さんの通報をきっかけに終わった。

電話しただけなのに
事件から半月ほどが経った今月5日、盛岡西警察署で袰岩さんに感謝状が贈られた。多くの報道陣が見守るなか、吉野幸雄署長から表彰状を受け取った袰岩さんは、少し照れ臭そうに笑みを浮かべながらも最後はしっかりと両手でその重みを確かめた。

「電話連絡をしただけなのにまさか感謝状もらえると思っていなかった。驚きとともに(感謝状をもらえることが)一生に一回あるかないかという感じなので、あとで喜びの方も出てきました」

式のあと袰岩さんは素直に喜びを語った。「表彰状は額に入れて家に飾りたい」。普段は警備員として勤務する袰岩さん。その正義感と機転を利かせた行動が地域住民の生活を守った。

確保の男6人は窃盗集団か?
太陽光発電設備の銅線が盗まれる被害が岩手県内でも発生している。警察は逮捕された6人について、ケーブル窃盗集団の可能性があるとみて余罪を追及している。