8月19日に開幕する世界陸上ブダペストで世界記録更新が期待される男子400mH世界記録保持者のK.ワーホルム(27、ノルウェー)。21年の東京五輪決勝で史上初の45秒台(45秒94)をマークし、優勝。昨年の世界陸上オレゴンではケガの影響で7位に終わるも、17年ロンドン、19年ドーハでは2連覇を成し遂げている。“超人”ワーホルムはどれほどすごいのか。世界陸上2大会(2001エドモントン、2005年ヘルシンキ)で男子400mHの銅メダリストに輝き、日本記録保持者の為末大さん(45)は「50年先の記録を先取っちゃったみたいな感じ」と絶賛する。
Q:ワーホルムの45秒94の凄さについて
為末さん:めちゃくちゃすごいんですよ。どれくらいすごいかっていうと、まあ怒られるかもしれないけど、ウサイン・ボルトの世界記録が目じゃないくらいすごいんですよ。エドウィン・モーゼスが47秒4とか3くらいを47秒0までは持っていくんですよ。10年くらい無敗なんですよ。その後ケビン・ヤングっていう選手が46秒7、8っていう記録を出しているのかな。その後30年記録が止まっているんですよね。だからだいたい0.2秒とか3秒縮むのに、20年とか30年かかってるっていうのが今までのペースなんで、46秒7から大体3、40年たったくらいかな?そうすると0.3、4秒伸びるっていうくらいが標準なんですけど、それが1秒いっちゃってるんですよ。ということは50年先の記録を先取っちゃったみたいな感じなんで。2070年とかに出るかもねっていう記録を今出しちゃったっていう感じですね。ボルトもすごかったけど、やっぱりすごい記録ですね。
※ウサイン・ボルト(ジャマイカ)・・・1986年生まれ。“人類最速”と言われる、100m(9秒58)、200m(19秒19)、の世界記録保持者。2012年のロンドン五輪では4×100mのメンバーとして世界記録樹立。世界陸上での金メダルは11個、五輪金メダル8個。
※エドウィン・モーゼス(アメリカ)・・・1955年生まれ。400mH元世界記録保持者。自己ベストは47秒02(1983年)。世界陸上は1983年ヘルシンキ、1987年ローマで金メダル。五輪は1976年モントリオール、1984年ロサンゼルスで金メダル。
※ケビン・ヤング(アメリカ)・・・1966年生まれ。1993年の世界陸上シュトゥットガルトで金メダリスト。1992年バルセロナ五輪は46秒78の世界記録(当時)で金メダルを獲得。
Q:記録が伸びる要因は?
為末さん:基本的には人間って、生まれた時のポテンシャルは変わらないですこの100年。技術の進化、栄養、食べているもの、だんだんわかっていくこともあるんで、「こうやったほうがうまくいくね」っていうトレーニングメソットと栄養とかそういうものの進歩っていえばいいと思う。そのペースと大体あてはめたら「だいたいこんな感じで伸びますね」って、どんな世の中でもそうじゃないですか。でも時々特異なことを世の中で起こしちゃう人がいるじゃないですか。アインシュタインみたいな感じの。なんかこの普通行くはずのペースを逸脱した何かやっちゃうっていうそういう感じですね、ワーホルムの記録は。なんでそんなことになったのっていうことは全然よくわからないっていう・・・
Q:スポーツ界としても証明できない?
為末さん:よく分からないですよね、我々の時より2秒早いからね。
Q:2秒ってやっぱり全然・・・
為末さん:全然ですよ。2秒ってだって走っていたら最後のハードルを僕が超えて、前向いたらゴールしている感じだと思うんですよ。だからもう全然違うっていう。高校生と僕が走った時の差くらいじゃないですか。嫌になっちゃうけど、それくらい速いんですよ。
Q:一緒の世代にいたらどう思います?
為末さん:まあ諦めますねやっぱり。無理なんで絶対に。まずは外してそれ以外の選手と・・・でも今他にもすごい選手がいますからね。でも相当頭抜けてますね。
Q:最近のスポーツでいうと大谷翔平さんとか、証明できないとんでもない人が現れた感じじゃないですか。陸上界からみても、そういう存在ではあるんですか?
為末さん:そうですね、凄いことがいろいろ起きていますけど、今陸上界で世界的にすごいのは男子の400mHと女子の400mHの記録じゃないですか?いきなりとんでもないことになっちゃったっていう意味では。何か特別な技術が開発されたのかなって思ってレース見たんですけど、そんなこともないんですよね。(ワーホルムは)イケメンだしね。いろいろ嫌になっちゃうなって感じですけど。一個くらい欠けているものないのかなっていう(笑)
【男子400mハードル】
■予選
20日 午後6時25分~
■準決勝
21日 午前2時33分~
■決勝
23日 午前4時50分~
(日本人選手の出場予定)
児玉悠作、黒川和樹、岸本鷹幸