■突然、消息を絶つ“幽霊タンカー”

ロシア原油の輸出量のグラフで番組が注目したのは、4月に突然増えた「不明」という項目だ。どこに輸出したかわかっていない原油が全体の5.3%もある。これは一体どういうことか?行方不明を紐解くうえで参考になるシステムがあった。


マリントラフィック・・・世界中の海を航行する船舶の位置をリアルタイムで表示するウェブサイトだ。航行の安全のため、一定の大きさを超える船舶に搭載が義務付けられているAIS(自動船舶識別装置)の信号を世界地図に反映している。これによって現在どんな船がどんな航路で進んでいるか把握できる。

しかし、このマリントラフィック上で昨今不可解な出来事が頻発していることが分かった。その一例がこれだ。


5月19日にクリミア半島のセバストポリをロシアの大型貨物船が出港。22日にボスボラス海峡を抜けエーゲ海を通り、25日キプロス沖を通過したあと、突如マリントラフィック上から消えた。救難信号もなくAISを意図的に切ったと考えられる。次にこの船の位置情報が確認されたのは6月1日。消息を絶った位置に近い海上に突然現れる。信号が途絶えていた161時間、ロシア船はどこにいたのか…。


衛星写真が停泊中の船舶をとらえていた。そこは航路の延長線上にあったシリアのラタキア港だった。在レバノンのウクライナ大使館によると、ロシアがウクライナから略奪した小麦10万トンを同盟国のシリアに送っていたのだという。もちろんロシア政府は否定しているが、実は位置情報を意図的に消す違法行為はしばしばあると、国際政治が専門の鈴木一人教授は言う。

東京大学公共政策大学院 鈴木一人教授
「AISを意図的に切ることはよくあります。北方領土付近で操業しているロシアの船とか、違法漁船とか、あとタンカーがマラッカ海峡近くなど、海賊が出るようなところでは自分の位置を知らせると海賊にも伝わるので切りますね。(中略)このラタキア港はロシア海軍なんかも使う港でシリアに向かって武器を運ぶ時もやっぱりAIS は地中海で切って、衛星写真で見ると接岸しているってケースがしばしばありました。まぁ違法な動きをする船はAISをよく切ります。」


AISを切れば怪しまれるが、衛星で追跡するほかないのでよっぽど危ないことが分かっている船以外はいちいち調べないという。もちろんAISが切られていたために石油の“瀬取り”が発覚したケースもある。去年も制裁下のイランのタンカーと中国のタンカーの“瀬取り”現場をインドネシアが押さえている。

東京大学公共政策大学院 鈴木一人教授
「イランは制裁中でもともと目をつけられていた。だからAISが切られたらすぐに怪しいと思ってインドネシアが拿捕した。ロシアの船も現在世界が目を光らせているので、AISを切ったら先ほどの小麦の船のようにすぐわかる」

ロシア産の原油を積み込んだタンカーがAISを切ることでマリントラフィック上から消える。
まさに“幽霊タンカー”だ。果たして“幽霊タンカー”はロシアの制裁の抜け道になっているのだろうか?


JOGMEC 原田大輔 調査役
「先ほどグラフにあった「不明5.3%」のほとんどが、実はバルト海のプリモルスツ港から出ていることが分かっています。どの船が運んでいるのかも常習性があるので会社の特定も進んでいる。ロシアの方も例えば「ラトビアブレンド」という名前もついてしまっていて、瀬取りで51%を違う産油国から持ってきて、49%のロシア産原油と混ぜる。これでこのタンカーの原油はロシア産ではないという産地偽装のようなことをやっている」

エネルギー輸出大国のロシアにとって原油の禁輸は一定の効果が見込めるが、抜け道はいくつもあるようだ。そこでイギリスとEUは一計を案じた。