病は口からーー。
6月7日、閣議決定された政府の『骨太の方針』。これまで『生涯を通じた歯科健診の充実』と表現されていたものが、『毎年の歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」の導入の検討』に変更されました。なぜ今『歯科健診』なのでしょうか?さらに、歯を失う大きな原因の一つ、『歯周病』の対策について専門家とともに解説します。

■日本の歯科健診の現状は

現在、日本で行われている歯科健診は、1歳半、3歳児、そして高校までの学校に通う子供に歯科健診が義務化されています。
大学生や社会人は対象外で、厚生労働省の資料によると1年以内に健診を受けた成人は、2人に1人ということです。

街の人に、歯科健診の状況について聞いてみました。

20代女性:
健診で行っているんですけど、それが半年に1回とか。

20代男性:
2年近く行ってないですね。2年前はむし歯の治療ですね。

他にも「5年行ってない」「悪くならないと行かない」という声も。歯科医院へは健診という形ではなく、治療に行くという方が多いようです。

ーー先生、歯科健診というのは何ですか?

すずらん歯科矯正歯科院長 照山裕子医師:
(歯が痛くなければ)何か悪いところないかな?と気づきにくい方が多いと思うんですね。痛くなってるということは、何かしら治療が必要で、極端な話、歯を削らなければいけない、そういうリスクが高い状態にあると思うんですね。ですから健診を受けて、何も異常がないというのを(定期的に)確認することが大事

照山医師によると、歯科健診は『最低でも半年に1回は検診を受けて欲しい』とのことです。

■『歯への意識が低い』日本人

日本人は欧米と比べて歯の健康への意識が低いのではないか?というデータがあります。歯科医院に通う主な理由を聞いてみたところ、アメリカとスウェーデンでは『歯の健康状態の診断』が一番多くて60%以上。
一方日本では『
虫歯治療で通う』が理由として一番多く、66.6%。

これを見ると、欧米では予防のために歯科医院に行くけれども、日本ではむし歯治療をするために歯科医院に行くという風潮があるようです。

照山医師:
欧米と日本では全然意識が違います。海外からの帰国子女の方もやはり健診をものすごく重視されていますね。(歯科健診を受けることによって)歯周病も防げますし、むし歯も初期の段階で発見して介入ができるということで、歯を削るリスクも下がると思います。

■日本の高齢者の歯は、スウェーデンと比べて6本少ない

また、高齢者の(残っている)歯の数をデータで見てみると、
▼アメリカ   18.4本(75歳以上)
▼スウェーデン 21.1本(80代)
▼日本     15.3本(80代前半)

デンタルフロスの使用率(2014年)についても、
▼アメリカ   60.1%
▼スウェーデン 51.2%
▼日本     19.4%

アメリカとスウェーデンは半数以上がデンタルフロスを使っているのに対し、日本は2割を切っているなど、日本人の歯への意識の低さが現れています。

■歯の意識が高い、島根県

しかし、日本でもオーラルケアへの意識が高いのが島根県です。
島根県松江市で『歯』について話を聞いてみました。

40代女性:
2週間か3週間に1回は(歯ブラシを)替えます。

70代男性:
(歯科医院に行くのは)10日に1回くらい。石(歯石)を取ってもらったり。

80代男性:
入れ歯はない。

80代女性:
私は85歳だけど、20本以上(歯が)あります。

島根県の予防意識の高さは行政の取り組みも影響しているようで、歯の健康についてのパンフレットの送付や、地元のケーブルテレビで毎週5分番組を放送するなど、歯の健康について啓発を行っています。

松江市歯科医師会・吉川会長によりますと、「健康寿命の延伸と最後まで健康に過ごすためには、歯の健康を維持することが大切である」ということです。

ーー歯だけじゃない、ということですよね

照山医師:
そうですね。やはり(歯は)全身の栄養状態にも関わってくる

■国民皆歯科健診の狙いは・・・歯周病から起きる重症リスク

歯を失う、大きな原因の一つが「歯周病」です。
歯周病は、細菌の感染で歯茎が赤く腫れたり出血し、歯が抜け落ちてしまうという病気。
歯周病になると、歯茎と歯の間に歯周ポケットいわゆる隙間ができ、隙間の深さが4ミリ以上になると、歯周病の初期段階ということになります。

歯周病から繋るリスクが高い病気には、糖尿病脳梗塞心臓病誤嚥性肺炎などがあり、さらに最近では、認知症との関連も言われています。

照山医師:
今は歯周病は様々な病気との関わりが言われています。(歯に)汚れやばい菌が溜まると、身体がそこから自分の身を守ろうとして、いろんな炎症反応をそこで起こしてしまう。いろんなサインが身体中を巡ることによって、病気の原因になる。

恵俊彰:
(歯周病は)歯が抜けるとかは想像するけれども、脳梗塞や認知症に繋がるとか、そういうイメージは湧かないですよね。

ジャーナリスト 大谷昭宏:
だから(歯科健診を)義務化して、それらの病気を予防することで医療費を減らしましょうと。

照山医師:
そうですね。やはり日本は長寿国ですので、健康で皆さんに長生きしていただきたいという思いが根本にあるんじゃないかなとは思います。