◆世の中を柔らかい方向へ変えるきっかけに



エンターテインメントという枠で話してきましたが、これは何も芸能界に限った話ではありません。一般社会においても、このことに関して同じようなことが言えるのではないでしょうか。

彼はスピーチの後半で、あるデータを引用しています。これ、結構重い話だったんです。與さんは「とある記事を読んで得た情報なのですが」と断ったうえで、次のように話しています。

“LGBTQ+”と自認している方のうち48%が自殺について考えたことがあり、さらにそのうちの12%は、実際にそれを行動に移していたという統計を目にしました。例えば、自分の性の対象が同性やどちらの性にも向いているというだけで命をなくす必要があるのでしょうか。理解されずに自分のことを責め続けて、最終的に耐えられずに追い込まれてしまう方が、これだけ多く存在するということを1人でも多くの方に知ってもらいたいです。

今回、行動を起こすことによって世の中を柔らかい方向へ変えるきっかけにする。“もの言えない雰囲気”を変えることになればと言っています。僕が素晴らしいと思うのは、彼自身の知名度を、こういう形で有効的に活用しようとしていることです。


◆エンターテイナーが声を上げる流れになってほしい


與さんがなぜ今このタイミングでカミングアウトをしたのかということは、僕はAAAのキャリアについてあまりよく知らないので断言できませんが、一つにはエイベックスのマネジメントが満期終了になって、エージェント契約になったことで、発言しやすくなったという背景はあるようです。

加えて、社会的には6月に国会で成立し、一応G7後にギリギリ施行された、いわくつきのLGBT理解増進法がありますが、それを受けてであろうということも何となく想像はつきますね。

LGBT理解増進法は、進歩だという方もいれば、これは悪法で、むしろ国民を分断するものではないかというような批判の意見もあります。そういった、ソーシャルな議論に対して、エンターテインメントの世界で人気もある與さんが、このタイミングで発言したことは、僕は本当に大きな出来事だなと思います。

声を上げるってことの重要さを、僕はこういったことで思い知りますし、今回のことに限らず、認知度の高い人がアクションを起こしてくれることによって、他の人たちも続きやすくなります。LGBTQ+に関すること以外でも、エンターテイナーの人たちが声を上げるような流れになってほしいなと思います。