人気グループAAAの與真司郎(あたえ・しんじろう)さんが7月26日、同性愛者であることを公表した。「3つ目の選択肢にたどり着きました」と語っているが、裏を返せばこれまでの芸能界にその選択肢がなかったことを物語っている。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんがこの勇気ある告白について「性的マイノリティの問題に限らず、エンターテイナーが声を上げる流れになってほしい」とコメントした。


◆AAAの與真司郎さんがゲイ告白


人気グループAAAのメンバー、與真司郎さんが先週、自身がゲイであるとファンに向けたイベントで公表しました。1週間ほど経ちましたが、いまも結構な余波が続いているように思います。

もしかしたらファンの方の中には、前から何となく感づいていた人もいるかもしれないし、距離感によっては「そうなの? 全然そう思わなかった」とか、いろんな反応があったようです。

あるいは「それをわざわざ言うことなのか」という、発言に対する是非をめぐって意見が分かれたりもしています。與さんの狙いだったのかどうかは別として、問題提起になっているなと思いました。


◆3つ目の選択肢をつくる



発言の全文はネット記事で読むことができますが、その中でも「この部分が肝になる」というところをピックアップしてみます。

カミングアウトを決意する前は2つの道だけしかないと思っていました。一つ目は、本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること。もう一つは、エンターテインメントの世界から退いて、世間から隠れてひっそりと暮らすことでした。

でも、たくさんたくさん考えて、3つ目の選択肢にたどり着きました。それはゲイということを公表した上で、エンターテインメントの活動を続けるということです。ありのままの自分で生きていくことで、大好きなエンターテインメントの活動をあきらめたくなかったんです。

僕はこれを機に、まったく違う人間になってしまうわけではありません。むしろ、このことを打ち明けたことによって、本来の自分を分かってもらえる、ファンの皆さんとの距離が縮まることを本当に願っています。


この言葉は重く、かつ本質的で、僕はこれを何度も何度も読み返しました。今年の日本のエンターテインメントビジネスの重要な言葉として、のちのち記憶されていくのではないかと思っているぐらいです。長いスピーチでしたが、その中でもこの部分にフォーカスして、僕なりに考察してみたいと思います。

「カミングアウトを決意する前は2つの道だけしかないと思っていました」これは言い換えると、これまでの芸能界、エンターテインメントの世界では2つだけしかなかったということです。

ひとつは「本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること」。つまり性自認をごまかし、偽って、エンターテインメントの世界で芸を見せたり、笑顔を見せたりするということですね。

そしてもうひとつは、本来の自分を優先した場合、芸能人ではいられない。だから、世間から隠れてひっそりと暮らすという表現を使っています。つまり、カミングアウトしながら芸能活動を続けるという両立ができないという現実が、今まではあったということを端的に述べています。

結局、彼は自分で選択肢をもうひとつ作ったんです。それは「ゲイということを公表した上で、エンターテインメントの活動も維持していく」ということ。これは昨今言われている「セルフラブ」「セルフケア」すなわち、ありのままの自分を受け入れて、自分をいたわるということを、今までの自分の公の部分を変えることなく続けていく。双方を両立させるということなんです。

「そんなの当たり前のことじゃないか」と僕は思ってしまったんですが、当たり前が当たり前としてこれまで通用してこなかったという現実を、彼の言葉は示していますね。