狙われやすい「陸路での移動」は最小限が鉄則

 日本訪問の際には、大統領の車列が大きな注目を浴びがちだが、実際のところ、最も狙われやすい陸路での移動は最小限に抑えるのが鉄則だという。そこでカギとなるのが大統領専用ヘリ「マリーンワン」をどこに下すのかということだ。2016年の伊勢志摩サミットでは、中部国際空港から賢島のサミット会場まで30kmの距離があったため、臨時のヘリポートが会場周辺の駐車場に設けられ、ここにオバマ大統領(当時)が降り立った。
 今回のバイデン大統領の場合も、米軍横田基地→六本木ヘリポートと空路での移動が殆どで、都内での陸上移動は最小限に抑えられている。都心の一等地に、米軍が今もなお広大なヘリポートを所有している実態は決して望ましくなく、日本への返還は喫緊の課題だが、こと大統領のセキュリティという観点からは、安全性に大きく寄与しているのだろう。

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 5月23日、日米共同記者会見に出席した後、迎賓館を出ると、そこには大統領専用車のビースト、警護車、ロードランナーと呼ばれる通信専用の特殊車両などが並んで駐車されていた。シークレットサービスがサングラスをかけ車両脇で警戒しているが、「世界広し」といえども、自前の警護車両をわざわざ他国に持ちこむのはアメリカ以外には存在しない。

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 世界中のいかなる場所でも、いかなる状況でも、指示を出す必要がある米大統領。一見すると“大げさな車列”も必要不可欠な存在と言えるかもしれないが、それは他国の警備を信用しない姿勢の表れでもある。重低音を響かせながらバイデン大統領の長い車列は迎賓館を出て、都内の喧噪へと吸い込まれていった。


毎日放送報道情報局 解説委員 三澤肇