「裁判所に対して憤りを感じます」 獄中死の後の再審決定

今回検察の有罪立証の方向に疑問を持つ人は多い。しかし、裁判で有罪を決定したり再審決定を覆したりしたのは裁判所だ。日本の刑事事件の有罪率は99%を超える。つまり検察の主張を裁判所が追認しているケースが多いのだ。裁判所の責任はないのだろうか?
父は無念の死を遂げた…とする元受刑者の息子が取材に応じてくれた。

事件があったのは1984年。滋賀県日野町で酒店を営む女性が殺害され金庫が盗まれた。事件から3年後に店の常連だった阪原弘さんを逮捕した。逮捕の決め手は自白。しかし阪原さんは裁判で「虚偽の自白をさせられた」と一貫して無罪を主張する。しかし裁判所は取り合わず無期懲役が確定、再審請求をしている中、阪原さんは獄中死した。その後、再審が決定されるが、もはや阪原さんはこの世にはおらず、遺族がいま再審を求めて戦っている。

阪原弘元受刑者の息子 弘次さん
「裁判所に対して憤りは感じます。悔しいです。あんなことのために、父は、刑務所に24年間もいなければいけなかった。あのとき父は逮捕されるべきではなかった。あのとき父は有罪判決を受けるべきではなかった。あのとき父は、死ぬべきではなかった」

自白が決め手の事件の多くで警察・検察の取り調べは過酷になりがちである。この事件も例外ではない。阪原元受刑者が自白する前日、取り調べから帰ってきた時に言った言葉は忘れられないと弘次さんは言う。

阪原弘元受刑者の息子 弘次さん
「父が逮捕される前日に父が訴えるんですよ。今日、父ちゃん自分がやったって言うてきたんやって。父ちゃんは殴られても蹴られても、自分がやったとはいわなかった。そやけど娘の嫁ぎ先行って家の中をガタガタにしてきたろか、親戚の男の職場に行って、その男に手錠をかけて職場の中引きずり回したろか、そう言われたときには父ちゃんどうも我慢できんかった。父ちゃんは何にもやってない。何もやってへん。誰が信用してくれんでも、お前らだけは信用してくれ、ということを涙ながらに訴えました我々に」

2000年に無期懲役が確定した11年後、阪原さんは再審請求中に死亡。その翌年、弘次さんら家族が、改めて裁判のやり直しを求めて始まった審理の中で、裁判所が検察側に求めて出てきた証拠の中に阪原さんのアリバイを示す証拠が出てきたという。再審決定はなんと2023年、今年だ。

阪原弘元受刑者の息子 弘次さん
「最初の裁判で、裁判官がまともに審議をしてくれて、もしかしたら阪原弘は無罪なんじゃないか。日野町事件は冤罪じゃないかと思っていただけたら、父はあのとき、無期懲役なんていう判決を受けることなかったです」

なぜ裁判官は真実に近づけなかったのか…そこには検察との関係の深さがあるのも一因だと、元裁判官の木谷明氏は言う。

元裁判官 木谷明氏
「日常の仕事が、この裁判所とこの検察官はひとつのチームみたいになる。事件になると必ずこの検事が出て来る。事件が変わっても検事は一緒、弁護士は入れ替わり立ち代わりという関係ですから、何となく親近感を抱いてしまう、人間なのでそういう意識は必ず生まれてしまいます。(一生懸命に立証をやろうとする検察の言うことが合っているという気持ちがある?)そういう風に思う人もかなりの人数いるかもしれません。自分は疑わしい時は証拠に照らし、それでも疑わしいなら被告人に有利にとやってきたつもりだが、間違っていることもあったかもしれません」

今年2月ようやく再審が決定したこの事件。しかし検察は、ここでも再審を認めず特別抗告し、再審の法廷が開かれるまでは、また相当の時間がかかることだけは確実になった。

阪原弘元受刑者の息子 弘次さん
「非常にその話を聞いたときは憤りを感じました。なんでまだ家族をいじめるんや。そこまでして自分たちの名誉を守りたいんかというふうな思いになりました。高齢になった母は85歳になりましたけども、この8月で86歳なんです。その母が生きてる間に、再審無罪を勝ち取って、父の墓にみんなが揃ってお参りしようとみんなで喜び合うというのが今の目標なんです」

元衆議院議員 菅野志桜里弁護士
「厚生省の村木厚子さんが証拠改ざんの嫌疑をかけられた冤罪事件のあと、検察は再生しなければならないとして、検察自身が『検察の理念』というのを出したんです。冤罪を無くさなければならない、検察は変わらなければならないという場面で作られた、この『検察の理念』というペーパーにあるのが、検察のロジックを表してると思うんです。それは『自己の名誉や評価を目的として行動せず、時としてこれが傷つくことも恐れない胆力が必要』とある。つまり、外の声に揺れるな、と。何と言われようと正義を貫く。あるいは胆力で真っすぐ進め、ということが書かれてる。でも、あの時も今も検察に足りないのは、外の意見を虚心坦懐に受け止め、間違いを認め引き返す勇気、胆力、ここが足りないと言われているという認識が持てていないんじゃないか…」

(BS-TBS 『報道1930』 7月19日放送より)